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#1 彷徨
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一日中、探していた。
自分とよく似た背格好の娘を。
大方の記憶は失われてしまったが、この社会のシステムについては、なぜかある程度知識が残っていた。
私は誰で、なぜここにいるのか。
それを突き止めるのは、後でいい。
とにかく今は、落ちつける場所を探さねば。
ターゲットを発見したのは、その日の夜遅くのことだった。
国道沿いのショッピングモール。
その駐車場に改造車を止め、柄の悪い若者たちがたむろしている。
彼女の注意を引いたのは、その中のひとりだった。
日本人離れした端正な横顔。
女にしては背が高く、均整の取れた体つきをしている。
近づいていくと、男のひとりが彼女に気づいて目を丸くした。
「なんだよ、おまえ? 頭おかしいのか? なんで裸で歩いてるんだよ?」
見るからに軽薄そうなニキビ面。
アルコールと薬物の匂いでひどく臭い。
「邪魔」
触手で殺した。
現在使用できる駆動体は、額の2本と肩の2本の計4本。
同類を捕食すれば、もっと増やすこともできるだろう。
眉間に開いた穴から血を噴き出して男がくず折れると、仲間たちが騒ぎ出した。
ターゲットをのぞけば、全部で5人。
3本の触手で3人を屠り、4本目で2人まとめて串刺しにした。
残りのひとり、ターゲットの娘に歩み寄る。
娘は涙で顔をぐしゃぐしゃにして、喉を詰まらせてひいひい喘いでいる。
引きずり起こすと、その額に眉間の眼を当てた。
大脳の辺縁系に触手をコネクトし、求める情報を検索する。
香椎エレナ 15歳
市内の公立中学の2年生。
家はこの近く。
同居人は軽い痴呆症の祖母ひとり。
これまであたった候補の中で、最高の条件を備えている。
「服を脱げ」
改造車の陰に娘を引きずり込むと、彼女は言った。
「下着も全部」
娘は妙に派手な格好をしている。
アイドルのようなひらひらした真紅のワンピースに、厚底のサンダル。
下品過ぎて気に入らないが、裸よりはマシと思い直す。
「お願い、殺さないで」
それ以上脅す必要もなく、脱ぎ出した。
娘の脱いだ服と下着を、見よう見まねで身に着ける。
スカートの丈が短すぎるが、サイズはちょうどいいようだ。
「もう、いいでしょ。見逃してよ。え? なに? 話が違う!」
わめく娘の首に触手を巻きつけ、ひとひねりでへし折った。
小枝の折れるような音とともに、首をあり得ない角度に曲げた娘が、くたくたと地面に崩れ落ちた。
何事もなかったように現場を後にすると、盗んだ記憶を頼りに娘の家へ向かう。
町のはずれの、古びた木造平屋建ての民家がそれだった。
建付けの悪い引き戸を開けて、玄関に踏みこんだ。
「ただいま」
声をかけると、
「エレナかい?」
驚いたような老婆の声がした。
上がり框の戸が開いて、小さな人影が現れる。
「ありがとうねえ。やっと帰ってきてくれたんだねえ」
彼女を見るなり、老婆の細い眼にじわりと涙があふれ出した。
まるで疑っていないようだ。
それだけ痴呆が進んでいるのか。
あるいはそれほど私が娘に似ているのか。
「うん」
サンダルを脱ぎながら、彼女は言った。
「ごめん、ばあちゃん。これからはもう、ずっとここにいるから」
以前は、番号で呼ばれていたような気がする。
でも、今は違う。
私は香椎エレナ。
そしてここが、これからの私の、活動拠点。
自分とよく似た背格好の娘を。
大方の記憶は失われてしまったが、この社会のシステムについては、なぜかある程度知識が残っていた。
私は誰で、なぜここにいるのか。
それを突き止めるのは、後でいい。
とにかく今は、落ちつける場所を探さねば。
ターゲットを発見したのは、その日の夜遅くのことだった。
国道沿いのショッピングモール。
その駐車場に改造車を止め、柄の悪い若者たちがたむろしている。
彼女の注意を引いたのは、その中のひとりだった。
日本人離れした端正な横顔。
女にしては背が高く、均整の取れた体つきをしている。
近づいていくと、男のひとりが彼女に気づいて目を丸くした。
「なんだよ、おまえ? 頭おかしいのか? なんで裸で歩いてるんだよ?」
見るからに軽薄そうなニキビ面。
アルコールと薬物の匂いでひどく臭い。
「邪魔」
触手で殺した。
現在使用できる駆動体は、額の2本と肩の2本の計4本。
同類を捕食すれば、もっと増やすこともできるだろう。
眉間に開いた穴から血を噴き出して男がくず折れると、仲間たちが騒ぎ出した。
ターゲットをのぞけば、全部で5人。
3本の触手で3人を屠り、4本目で2人まとめて串刺しにした。
残りのひとり、ターゲットの娘に歩み寄る。
娘は涙で顔をぐしゃぐしゃにして、喉を詰まらせてひいひい喘いでいる。
引きずり起こすと、その額に眉間の眼を当てた。
大脳の辺縁系に触手をコネクトし、求める情報を検索する。
香椎エレナ 15歳
市内の公立中学の2年生。
家はこの近く。
同居人は軽い痴呆症の祖母ひとり。
これまであたった候補の中で、最高の条件を備えている。
「服を脱げ」
改造車の陰に娘を引きずり込むと、彼女は言った。
「下着も全部」
娘は妙に派手な格好をしている。
アイドルのようなひらひらした真紅のワンピースに、厚底のサンダル。
下品過ぎて気に入らないが、裸よりはマシと思い直す。
「お願い、殺さないで」
それ以上脅す必要もなく、脱ぎ出した。
娘の脱いだ服と下着を、見よう見まねで身に着ける。
スカートの丈が短すぎるが、サイズはちょうどいいようだ。
「もう、いいでしょ。見逃してよ。え? なに? 話が違う!」
わめく娘の首に触手を巻きつけ、ひとひねりでへし折った。
小枝の折れるような音とともに、首をあり得ない角度に曲げた娘が、くたくたと地面に崩れ落ちた。
何事もなかったように現場を後にすると、盗んだ記憶を頼りに娘の家へ向かう。
町のはずれの、古びた木造平屋建ての民家がそれだった。
建付けの悪い引き戸を開けて、玄関に踏みこんだ。
「ただいま」
声をかけると、
「エレナかい?」
驚いたような老婆の声がした。
上がり框の戸が開いて、小さな人影が現れる。
「ありがとうねえ。やっと帰ってきてくれたんだねえ」
彼女を見るなり、老婆の細い眼にじわりと涙があふれ出した。
まるで疑っていないようだ。
それだけ痴呆が進んでいるのか。
あるいはそれほど私が娘に似ているのか。
「うん」
サンダルを脱ぎながら、彼女は言った。
「ごめん、ばあちゃん。これからはもう、ずっとここにいるから」
以前は、番号で呼ばれていたような気がする。
でも、今は違う。
私は香椎エレナ。
そしてここが、これからの私の、活動拠点。
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