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#11 葬儀を終えて
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マナの活躍?のおかげで、無事、葬儀は終了した。
僕ら一般参列者の役目としては、あとは出棺を見送るだけである。
が、それが最もつらいひと幕となった。
霊柩車に棺が積まれると、父親の手を振り切って真由美の妹が姉の棺にすがりつき、あたりはばからぬ大声で泣き叫び始めたのである。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
その悲痛な叫びは参列者の新たな涙を誘い、僕も人知れず目尻を拭ったものだった。
妹を含めた家族を乗せて、お棺とともに霊柩車が走り去ると、式場全体に急速に弛緩した空気が漂った。
「翠(みどり)ちゃん、可哀想。仲のいい姉妹だったのに」
いつの間にか僕の横に立っていた涼子が、ハンカチを鼻の下に押し当てながら、くぐもった声でつぶやいた。
スタイルのいい体を喪服に包んだ涼子はとても美しく、僕は束の間我を忘れてその横顔に見入ってしまった。
「しかしなあ、葬式の最中のアレ、いったいなんだったんだと思う?」
涼子と僕の間に割り込むようにして顏を出したのは、善次だった。
「子どものいたずらにしては、気味が悪かったよなあ。まさか、心霊現象とか、そういうのじゃないだろうなあ」
「やめてよ、ひなたくん。縁起でもない」
涼子が形のいい眉をひそめて、善次をにらんだ。
「けど、涼子だって気づいてたじゃないか。あの椅子の下のキモい眼。それから、走り回る黒い影」
「それはそうだけど…。でも、今そんなこと考えるなんて、不謹慎だと思う。真由美に悪いよ」
「あのさ」
訊こう訊こうと思いながら口にできなかったことを、僕はおずおずと切り出した。
「怒らずに聞いてほしいんだけど、福島は、死んだ篠田と同じ大学で、仲も良かったんだろ?」
「うん。それが?」
「篠田って、ひょっとして、誰かに呪われてたとか、そういうことなかったかな?」
「呪われてた?」
涼子の声が尖った。
「信じられない。見損なったわ。日向君はともかく、榊原君までそんなひどいこと言うなんて。真由美に限って、そんなのあるわけないじゃない。第一、呪いってなによ? あなた、この21世紀に、そんなものが本当にあると思ってるの?」
まずい。
怒らせちまったぞ。
もう少し、婉曲に攻めるべきだったのだ。
僕は穴があったら入りたくなった。
その時だった。
あの”騒動”の後、ふらりと外へ出て行って行方をくらましていたマナが、ふいに僕らの前に現れた。
葬儀の会場で見た時もそうだったが、気に入らなくて途中でどこかに捨てたのか、すでにマナは僕が貸したあのダサい学生帽をかぶっていなかった。
だから、可愛らしいスキンヘッドのままである。
「あれ? き、キミは、さっきの?」
つるつる頭で学ラン姿のマナを見て、善次が頓狂な声を上げた。
誰なの、この子?
という目つきで、涼子が僕を見る。
「あのね。お姉さん」
涼子を上目遣いに見つめて、諭すようにマナが言った。
「充の質問には、真面目に答えたほうがいいよ。さっきのあれ、見たでしょ? 様子を探りに来た影だったからよかったものの、あれが本体なら、今頃ここにいる全員が、間違いなく死んでいた。呪いはね。実在するの。ニンゲンという種が、この地球上に生きてる限り、アフリカにも、ヨーロッパにも、中国にも、そしてこの日本にも」
僕ら一般参列者の役目としては、あとは出棺を見送るだけである。
が、それが最もつらいひと幕となった。
霊柩車に棺が積まれると、父親の手を振り切って真由美の妹が姉の棺にすがりつき、あたりはばからぬ大声で泣き叫び始めたのである。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
その悲痛な叫びは参列者の新たな涙を誘い、僕も人知れず目尻を拭ったものだった。
妹を含めた家族を乗せて、お棺とともに霊柩車が走り去ると、式場全体に急速に弛緩した空気が漂った。
「翠(みどり)ちゃん、可哀想。仲のいい姉妹だったのに」
いつの間にか僕の横に立っていた涼子が、ハンカチを鼻の下に押し当てながら、くぐもった声でつぶやいた。
スタイルのいい体を喪服に包んだ涼子はとても美しく、僕は束の間我を忘れてその横顔に見入ってしまった。
「しかしなあ、葬式の最中のアレ、いったいなんだったんだと思う?」
涼子と僕の間に割り込むようにして顏を出したのは、善次だった。
「子どものいたずらにしては、気味が悪かったよなあ。まさか、心霊現象とか、そういうのじゃないだろうなあ」
「やめてよ、ひなたくん。縁起でもない」
涼子が形のいい眉をひそめて、善次をにらんだ。
「けど、涼子だって気づいてたじゃないか。あの椅子の下のキモい眼。それから、走り回る黒い影」
「それはそうだけど…。でも、今そんなこと考えるなんて、不謹慎だと思う。真由美に悪いよ」
「あのさ」
訊こう訊こうと思いながら口にできなかったことを、僕はおずおずと切り出した。
「怒らずに聞いてほしいんだけど、福島は、死んだ篠田と同じ大学で、仲も良かったんだろ?」
「うん。それが?」
「篠田って、ひょっとして、誰かに呪われてたとか、そういうことなかったかな?」
「呪われてた?」
涼子の声が尖った。
「信じられない。見損なったわ。日向君はともかく、榊原君までそんなひどいこと言うなんて。真由美に限って、そんなのあるわけないじゃない。第一、呪いってなによ? あなた、この21世紀に、そんなものが本当にあると思ってるの?」
まずい。
怒らせちまったぞ。
もう少し、婉曲に攻めるべきだったのだ。
僕は穴があったら入りたくなった。
その時だった。
あの”騒動”の後、ふらりと外へ出て行って行方をくらましていたマナが、ふいに僕らの前に現れた。
葬儀の会場で見た時もそうだったが、気に入らなくて途中でどこかに捨てたのか、すでにマナは僕が貸したあのダサい学生帽をかぶっていなかった。
だから、可愛らしいスキンヘッドのままである。
「あれ? き、キミは、さっきの?」
つるつる頭で学ラン姿のマナを見て、善次が頓狂な声を上げた。
誰なの、この子?
という目つきで、涼子が僕を見る。
「あのね。お姉さん」
涼子を上目遣いに見つめて、諭すようにマナが言った。
「充の質問には、真面目に答えたほうがいいよ。さっきのあれ、見たでしょ? 様子を探りに来た影だったからよかったものの、あれが本体なら、今頃ここにいる全員が、間違いなく死んでいた。呪いはね。実在するの。ニンゲンという種が、この地球上に生きてる限り、アフリカにも、ヨーロッパにも、中国にも、そしてこの日本にも」
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