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第470話 冥府の王㉑
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「社会見学?」
僕は考え込んだ。
4年生が社会見学に行ったのは、確か今年の4月下旬。
帰ってきてから、香澄が興奮気味に何かしゃべっていた記憶がある。
ふだんから寡黙な香澄が目をキラキラさせて話してくれたのは…。
「そうか」
思い出して、僕はひとりごちた。
「恐竜だ。香澄たちは、枯れ谷に化石掘りに行ったんだ」
「うん」
首をこっくりさせる香澄。
「香澄ね。アンモナイトの化石、見つけちゃったんだよ。小さいけど、とってもきれいなの」
香澄の部屋には宝箱があって、そこに彼女のお気に入りが色々詰まっている。
アンモナイトの化石も、おそらくそのなかだろう。
「なるほどね。竜=恐竜か。それはありえるかも」
由利亜がうなずいた。
「枯れ谷なら、ここからそう遠くない。なんなら、今から行ってみるか」
剛が言って、僕と由利亜の顔をかわるがわる見回した。
「私は構わないけど、香澄ちゃんは大丈夫?」
「そんなに遅くならなければ」
香澄に代わって僕は答えた。
「暗くなる前に帰れれば、母さんもきっと何も言わないと思う」
放心状態で縁側に腰かけている母さんの姿が、ふと脳裏に浮かんで、消えた。
あの様子じゃ、きっと僕らがいなくなったことにも気づいていないに違いない。
「よし、そうと決まれば出発だ」
剛が腰を上げた。
香澄が椅子から飛び降りる。
「でも、竜が恐竜の化石だとして、涙ってのは、何なのかしらね」
部屋の電気を消して、由利亜が言った。
「涙っていうからには、ダイヤモンドみたいな宝石じゃないかな」
思いつきを口にすると、
「ダイヤモンドが、小学生の社会見学の場所に埋まってるとは思えないけど」
由利亜が至極もっともな意見を返してきた。
「由利亜の得意な古事記の話だと、それ、桃の実のことなんだろ? 大方、木の実の化石かなんかじゃねえのか」
廊下を歩きながら、剛が言った。
粗暴な剛にしては、珍しくまともな台詞だった。
「その可能性もあると思うけど、イザナミの神話とハンザキに特に関連性はないよ。壁画の絵から、私がそうイメージしただけで」
由利亜はあくまで慎重だ。
階段を上がって人気のない玄関ホールに出ると、由利亜は事務所に近寄り、ガラス窓越しに父親に声をかけた。
「ちょっと外出てくるから」
ガラス窓の向こうで、禿げ頭が顔を上げるのが見えた。
「今頃からどこに行く?」
「化石掘りに、枯れ谷まで」
「あんまり遅くなるんじゃないぞ。この前の事件の犯人、まだ捕まってないんだからな」
この前の事件とは、僕の祖父が殺された事件のことだろう。
そして、野放しの犯人といえば、当然、ハンザキだ。
「きょうは晴れてるから大丈夫。叔父さんが言ってたでしょ。ハンザキは嵐の日にしか出てこないって」
由利亜はそれだけ言うと、返事も待たずに僕らのもとに戻ってきた。
「晴れた日には出てこないって、本当なの?」
訊くと、由利亜が答えるより早く、横から剛が言った。
「なんだ、知らなかったのか? 5年前もそうだったんだぜ」
僕は、一度だけ見たハンザキのシルエットを思い返してみた。
そういえばあいつ、何かレインコートみたいなものを着てたっけ。
「それが本当なら、ハンザキって、ひょっとして水の中に住んでるんじゃないかな。河童みたいにさ」
「さあ」
由利亜は取り合わなかった。
「ハンザキって、河童なの?」
香澄が僕を見上げて訊いてきた。
「かもな」
笑ったのは、剛だった。
「確かに、香澄ちゃんの言う通り、突然変異で気の触れた、河童みたいなものかもしれないな」
僕は考え込んだ。
4年生が社会見学に行ったのは、確か今年の4月下旬。
帰ってきてから、香澄が興奮気味に何かしゃべっていた記憶がある。
ふだんから寡黙な香澄が目をキラキラさせて話してくれたのは…。
「そうか」
思い出して、僕はひとりごちた。
「恐竜だ。香澄たちは、枯れ谷に化石掘りに行ったんだ」
「うん」
首をこっくりさせる香澄。
「香澄ね。アンモナイトの化石、見つけちゃったんだよ。小さいけど、とってもきれいなの」
香澄の部屋には宝箱があって、そこに彼女のお気に入りが色々詰まっている。
アンモナイトの化石も、おそらくそのなかだろう。
「なるほどね。竜=恐竜か。それはありえるかも」
由利亜がうなずいた。
「枯れ谷なら、ここからそう遠くない。なんなら、今から行ってみるか」
剛が言って、僕と由利亜の顔をかわるがわる見回した。
「私は構わないけど、香澄ちゃんは大丈夫?」
「そんなに遅くならなければ」
香澄に代わって僕は答えた。
「暗くなる前に帰れれば、母さんもきっと何も言わないと思う」
放心状態で縁側に腰かけている母さんの姿が、ふと脳裏に浮かんで、消えた。
あの様子じゃ、きっと僕らがいなくなったことにも気づいていないに違いない。
「よし、そうと決まれば出発だ」
剛が腰を上げた。
香澄が椅子から飛び降りる。
「でも、竜が恐竜の化石だとして、涙ってのは、何なのかしらね」
部屋の電気を消して、由利亜が言った。
「涙っていうからには、ダイヤモンドみたいな宝石じゃないかな」
思いつきを口にすると、
「ダイヤモンドが、小学生の社会見学の場所に埋まってるとは思えないけど」
由利亜が至極もっともな意見を返してきた。
「由利亜の得意な古事記の話だと、それ、桃の実のことなんだろ? 大方、木の実の化石かなんかじゃねえのか」
廊下を歩きながら、剛が言った。
粗暴な剛にしては、珍しくまともな台詞だった。
「その可能性もあると思うけど、イザナミの神話とハンザキに特に関連性はないよ。壁画の絵から、私がそうイメージしただけで」
由利亜はあくまで慎重だ。
階段を上がって人気のない玄関ホールに出ると、由利亜は事務所に近寄り、ガラス窓越しに父親に声をかけた。
「ちょっと外出てくるから」
ガラス窓の向こうで、禿げ頭が顔を上げるのが見えた。
「今頃からどこに行く?」
「化石掘りに、枯れ谷まで」
「あんまり遅くなるんじゃないぞ。この前の事件の犯人、まだ捕まってないんだからな」
この前の事件とは、僕の祖父が殺された事件のことだろう。
そして、野放しの犯人といえば、当然、ハンザキだ。
「きょうは晴れてるから大丈夫。叔父さんが言ってたでしょ。ハンザキは嵐の日にしか出てこないって」
由利亜はそれだけ言うと、返事も待たずに僕らのもとに戻ってきた。
「晴れた日には出てこないって、本当なの?」
訊くと、由利亜が答えるより早く、横から剛が言った。
「なんだ、知らなかったのか? 5年前もそうだったんだぜ」
僕は、一度だけ見たハンザキのシルエットを思い返してみた。
そういえばあいつ、何かレインコートみたいなものを着てたっけ。
「それが本当なら、ハンザキって、ひょっとして水の中に住んでるんじゃないかな。河童みたいにさ」
「さあ」
由利亜は取り合わなかった。
「ハンザキって、河童なの?」
香澄が僕を見上げて訊いてきた。
「かもな」
笑ったのは、剛だった。
「確かに、香澄ちゃんの言う通り、突然変異で気の触れた、河童みたいなものかもしれないな」
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