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#400話 旧トンネルの怪⑤

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「零ったら、さっきから何見てるの?」
 零のつぶやきが気になって、私はたずねた。
 そういうこと?
 何が”そういうこと”なんだろう。
「わかる? あそこだけ、土がむき出しになってる」
 視線の先を追うと、確かに山側の側壁の上部、コンクリートから草むらに変わるあたりに一か所、草のない部分があった。
 そこだけ新しい土を盛ったみたいに、瑞々しい黒色をしているのだ。
「あれがどうしたってんだ?」
 ニラさんが胡散臭そうに零の横顔をねめつけた。
「行くよ」
 そう言い残すなり、ひょうひょいと身軽に側壁を登っていく零。
 頭からすっぽりフードを被った黒いコート姿は、鎌を持たせたらまるっきり死神そのものだ。
 それにしても、速い。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
 私とニラさんは、ぜえぜえ言いながら後を追った。
 いくら月齢が低くても、この程度の運動には大して支障はないらしい。
 ようやくたどり着くと、零はごついブーツのつま先で色が変わったあたりの土をつついているところだった。
 ほどなくしてごろりと土の塊が手前に転がり落ち、続いて小規模な土砂崩れが始まった。
「やっぱり」
 腰をかがめて後に開いた穴をのぞきこみ、零がつぶやいた。
「ま、まさか、被害者の車は、この穴を通って旧道側へ行ったって、零はそう言いたいの?」
 ピンときてそう訊くと、
「馬鹿言うな。この穴、旧道とは反対側の側壁に開いてるんだぞ? それに、こんな高い位置まで、車がどうやって登ったってんだ?」
 脇からニラさんが呆れたような口調で突っ込んできた。
「私だって、そう思いますけど…」
 ニラさんの言う通りである。
 この穴が、新道と旧道を隔てる中央分離帯の隔壁に開いているなら、まだわかる。
 でも、そうじゃなくって、ここは旧道とは反対の山側なのだ。
 それに、これもニラさんの指摘通り、穴は路面から優に10メートル以上高い位置にある。
「入ってみればわかる」 
 土を蹴り続けて十分に穴を広げると、にべもない口調で零が言った。
 あくまでも、言葉で説明する気はないらしい。
「まじかよ」
 うんざりしたようにぼやくニラさん。
 普段はうざい元上司だけれども、この時だけは私も彼に全面的に賛成だった。
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