423 / 423
#399話 旧トンネルの怪④
しおりを挟む
車で約1時間。
ニラさんが私たちを連れて行ったのは、事故現場の能勢山トンネルへ向かう旧道に沿った新道のほうだった。
「見りゃわかると思うが、トンネルには車では行けない。あの通り、旧道は使い物にならないからな」
路肩に覆面パトカーを停めたニラさんがそのごつい顎で指し示した先は、腰ほどの高さの中央分離帯の向こう側である。
かなたに黒々とうずくまるトンネルへと向かう道は、確かに草ぼうぼうで砂利や小石に埋め尽くされている。
ニラさんの言う通り、あれではとても車での通行は不可能だ。
そういえば、トンネル内で事故車を発見したのも、徒歩で心霊スポット探索に来た若者たちだったように思う。
「それに、目当てのものは、実はこっち側にあるんでね」
ニラさんに続いて車を降りると、初老の刑事は少し先の路肩にうずくまり、私たちを手招きした。
「見ろ。血痕だ」
ニラさんの指先を覗き込むと、なるほど、アスファルトの表面にかすかだが、茶褐色の染みが付着していた。
「これって、まさか…?」
「その”まさか”だよ。トンネルで発見された自家用車の所有者、青木健吾氏の血痕だ。DNA鑑定も済んでいる」
「そんな、どうして?」
「マスコミには公表していないが、このあたりでは事故車の塗料やヘッドライトの破片も発見されている。つまり、本当の事故現場はこっち側の道ってことなんだな」
「ここで事故った車が、1キロ近く先の、しかも旧道のトンネル内に移動したっていうんですか? そんな、あり得ないし、意味不明」
「しょうがねえだろ。物的証拠がみんなここが事故現場だって示してるんだからさ」
わけがわからなかった。
ここで事故を起こした被害者は、中央分離帯を乗り越えて旧道に侵入し、あの草ぼうぼうのほぼ通行不可能な道を四苦八苦してトンネルまで走ったとでも言うのだろうか。
でも見たところ中央分離帯にはどこも切れ目や破損箇所はなさそうだし、そもそもそんなことをして何の意味があるのだろう。
下手に無茶な大移動を敢行するより、この場で警察に連絡するか、あるいは通りかかった他の車に助けを求めたほうがいいはずだ。
「ねえ、零はどう思うの? 外道ハンターとしての見解を教えてよ」
振り仰いで零のほうを見ると、不愛想で寡黙な相棒は、私たちとは全く別の方角を向いていた。
路肩からせり上がる土手のほうである。
土手は下半分がコンクリートで固められていて、上の方には草が生えている。
「そういうことか」
その一角に鋭い視線を当てたまま、漆黒のシルエットの女死神がぼそりとつぶやいた。
ニラさんが私たちを連れて行ったのは、事故現場の能勢山トンネルへ向かう旧道に沿った新道のほうだった。
「見りゃわかると思うが、トンネルには車では行けない。あの通り、旧道は使い物にならないからな」
路肩に覆面パトカーを停めたニラさんがそのごつい顎で指し示した先は、腰ほどの高さの中央分離帯の向こう側である。
かなたに黒々とうずくまるトンネルへと向かう道は、確かに草ぼうぼうで砂利や小石に埋め尽くされている。
ニラさんの言う通り、あれではとても車での通行は不可能だ。
そういえば、トンネル内で事故車を発見したのも、徒歩で心霊スポット探索に来た若者たちだったように思う。
「それに、目当てのものは、実はこっち側にあるんでね」
ニラさんに続いて車を降りると、初老の刑事は少し先の路肩にうずくまり、私たちを手招きした。
「見ろ。血痕だ」
ニラさんの指先を覗き込むと、なるほど、アスファルトの表面にかすかだが、茶褐色の染みが付着していた。
「これって、まさか…?」
「その”まさか”だよ。トンネルで発見された自家用車の所有者、青木健吾氏の血痕だ。DNA鑑定も済んでいる」
「そんな、どうして?」
「マスコミには公表していないが、このあたりでは事故車の塗料やヘッドライトの破片も発見されている。つまり、本当の事故現場はこっち側の道ってことなんだな」
「ここで事故った車が、1キロ近く先の、しかも旧道のトンネル内に移動したっていうんですか? そんな、あり得ないし、意味不明」
「しょうがねえだろ。物的証拠がみんなここが事故現場だって示してるんだからさ」
わけがわからなかった。
ここで事故を起こした被害者は、中央分離帯を乗り越えて旧道に侵入し、あの草ぼうぼうのほぼ通行不可能な道を四苦八苦してトンネルまで走ったとでも言うのだろうか。
でも見たところ中央分離帯にはどこも切れ目や破損箇所はなさそうだし、そもそもそんなことをして何の意味があるのだろう。
下手に無茶な大移動を敢行するより、この場で警察に連絡するか、あるいは通りかかった他の車に助けを求めたほうがいいはずだ。
「ねえ、零はどう思うの? 外道ハンターとしての見解を教えてよ」
振り仰いで零のほうを見ると、不愛想で寡黙な相棒は、私たちとは全く別の方角を向いていた。
路肩からせり上がる土手のほうである。
土手は下半分がコンクリートで固められていて、上の方には草が生えている。
「そういうことか」
その一角に鋭い視線を当てたまま、漆黒のシルエットの女死神がぼそりとつぶやいた。
0
お気に入りに追加
74
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(12件)
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理なギャグが香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
いいですね~!読みやすくて面白く、どんどんページをめくってしまいます。
こんな切り口があったのかと勉強になりますし、応援していきます^^
ありがとうございます。
精進します。
第276話(300個め)墓参り、の「死因は癌で」のところが「死因は鴈で」になっています。間違いでしょうか?
ありがとうございます。
直します。
普通に気持ち悪い
すみません。
書いてるほうは感覚がマヒしてきているようです。