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#374話 施餓鬼会㊲
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私はわが目を疑った。
驚愕のあまり、声が出なかった。
舌が上顎に貼りつき、一瞬にして唾液が引いていくのがわかった。
最初に現れた餓鬼。
その顔は、年老いた老婆のものだった。
般若のように凶悪な形相をしているが、間違いない。
母である。
その母の身体を棘だらけの四肢を駆使して乗り越えようと現れたのは、妹だ。
餓鬼化していても妹の身体は母よりも若々しく、むき出しの乳房にも張りがある。
山積みになった生肉の中に飛び込むと、二匹はガツガツと餌に食らいつく。
そこに、他の餓鬼たちを引き連れるようにして、勇樹が現れた。
勇樹は以前より巨大化していて、餓鬼というよりまるで土蜘蛛だ。
まさか、こんなことになっていようとは…。
母と妹は、ただ勇樹にさらわれただけでなく、奴と同じ餓鬼にされてしまっていたのである。
絶望的な気分だった。
私の家族を含め、出現した餓鬼は全部で六匹。
用意した餌はすごい勢いでなくなっていく。
ただ、その中に亜季の姿だけは、なかった。
それを救いととらえるか、新たな謎が増えたと見るか、私にはどちらとも判断がつかなかった。
「いやはや、ありゃ、まさしく本物の餓鬼だ」
住職がハンカチでレンズをごしごしこすり、眼鏡をかけ直す。
「よもや、マジもんの施餓鬼供養になってしまうとはね…」
「でもあの餓鬼たち、どこから現れたのかな。全然気配が感じられなかったのに。何か秘密の通路みたいなものが、この辺にあるんでしょうか」
「もしかして、あれじゃないかな」
ようやく声を絞り出し、私は言った。
「河原への分かれ道の所に、祠みたいなものがあっただろ? 中の石仏が倒れかけてたやつ。あそこと、例の遺構が地下でつながっていたとしたら…」
「そっか。それはあり得るかも」
そこへ、スマホにLINEが来た。
対面の岩陰に身を潜めている猟友会の老人からだ。
ーレデイ、ゴー?
パンダのスタンプとともに、そんな文字が躍っている。
ーお願いしますー
打ち返すと、ほとんど同時にバサッという大きな音がして、窪地に敷かれた投網の四隅が一気に持ち上がった。
投網は見る間にティアドロップ型の袋となり、6匹の餓鬼を閉じ込める。
「よし、警察に連絡しよう」
「もう、やってます」
スマホを耳に当て、菜緒が言う。
念のため、救急車も呼んだ。
「やったな。大成功じゃ」
大仕事をやり終えた猟友会の3人が駆けてきた。
「これで、野放しになっている餓鬼病患者たちに警察の注意が向き、彼らがすべてしかるべき施設に収容されれば、後は病気の治療法が確立されるのを待つだけです」
「そうですね。治療法、早く見つかるといいですね」
近づいてくるパトカーと救急車のサイレンが、菜緒の声をかき消した。
私は吊り下げられた網の中で暴れ狂う餓鬼たちを複雑な思いで眺めた。
はたして、母や妹、そして勇樹が、元に戻る日が本当にくるのだろうか?
ふと、そう思ったのだ。
驚愕のあまり、声が出なかった。
舌が上顎に貼りつき、一瞬にして唾液が引いていくのがわかった。
最初に現れた餓鬼。
その顔は、年老いた老婆のものだった。
般若のように凶悪な形相をしているが、間違いない。
母である。
その母の身体を棘だらけの四肢を駆使して乗り越えようと現れたのは、妹だ。
餓鬼化していても妹の身体は母よりも若々しく、むき出しの乳房にも張りがある。
山積みになった生肉の中に飛び込むと、二匹はガツガツと餌に食らいつく。
そこに、他の餓鬼たちを引き連れるようにして、勇樹が現れた。
勇樹は以前より巨大化していて、餓鬼というよりまるで土蜘蛛だ。
まさか、こんなことになっていようとは…。
母と妹は、ただ勇樹にさらわれただけでなく、奴と同じ餓鬼にされてしまっていたのである。
絶望的な気分だった。
私の家族を含め、出現した餓鬼は全部で六匹。
用意した餌はすごい勢いでなくなっていく。
ただ、その中に亜季の姿だけは、なかった。
それを救いととらえるか、新たな謎が増えたと見るか、私にはどちらとも判断がつかなかった。
「いやはや、ありゃ、まさしく本物の餓鬼だ」
住職がハンカチでレンズをごしごしこすり、眼鏡をかけ直す。
「よもや、マジもんの施餓鬼供養になってしまうとはね…」
「でもあの餓鬼たち、どこから現れたのかな。全然気配が感じられなかったのに。何か秘密の通路みたいなものが、この辺にあるんでしょうか」
「もしかして、あれじゃないかな」
ようやく声を絞り出し、私は言った。
「河原への分かれ道の所に、祠みたいなものがあっただろ? 中の石仏が倒れかけてたやつ。あそこと、例の遺構が地下でつながっていたとしたら…」
「そっか。それはあり得るかも」
そこへ、スマホにLINEが来た。
対面の岩陰に身を潜めている猟友会の老人からだ。
ーレデイ、ゴー?
パンダのスタンプとともに、そんな文字が躍っている。
ーお願いしますー
打ち返すと、ほとんど同時にバサッという大きな音がして、窪地に敷かれた投網の四隅が一気に持ち上がった。
投網は見る間にティアドロップ型の袋となり、6匹の餓鬼を閉じ込める。
「よし、警察に連絡しよう」
「もう、やってます」
スマホを耳に当て、菜緒が言う。
念のため、救急車も呼んだ。
「やったな。大成功じゃ」
大仕事をやり終えた猟友会の3人が駆けてきた。
「これで、野放しになっている餓鬼病患者たちに警察の注意が向き、彼らがすべてしかるべき施設に収容されれば、後は病気の治療法が確立されるのを待つだけです」
「そうですね。治療法、早く見つかるといいですね」
近づいてくるパトカーと救急車のサイレンが、菜緒の声をかき消した。
私は吊り下げられた網の中で暴れ狂う餓鬼たちを複雑な思いで眺めた。
はたして、母や妹、そして勇樹が、元に戻る日が本当にくるのだろうか?
ふと、そう思ったのだ。
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