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#370話 施餓鬼会㉟

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 画面の中の餓鬼は、蜘蛛のそれのような脚を交互に動かし、部屋の中をぐるぐる回り始めた。
 餓鬼が移動するたびに、床には抜けた長い髪の毛が散らばり、ぼたぼたと血にまみれた膿のようなものが落ちる。
「体組織の腐敗が始まってるんだ。細胞が腐って、少しずつ剥がれ落ちていく」
「それでよく死なないね。もしかして、そのうち、本物の亡者になってしまうとか」
「今、適合する薬を探してるところなんだけど、なかなかいいのがないらしい」
 青年と菜緒が話し込んでいると、通用口から看護師が顔を覗かせた。
「溝呂木君、いつまで油売ってんの? 休憩時間、もうとっくに過ぎてるよ」
「はいはい」
 青年は腰を上げると白衣をパンパンとはたき、
「じゃ、行ってくるよ。地獄へ、ね」
 諦めたように笑って看護師の消えた通用口に戻って行った。
「まずいな」
 彼の背中を見送りながら、思わず知らず、私はうめいていた。
「まさか、あそこまでひどいとは。くそ、早く見つけないと…」
「ご家族のこと、心配ですね」
「正直、甥の勇樹はすでに手遅れかもしれない。だけど、あとの3人は…」
 妹と母、それに亜季。
 少なくともあの3人は、最後に会った時は正常だった。
 しかし、もしこの病が、患者に噛まれることによって感染するものだとすると、今頃全員勇樹によって感染させられた可能性もある。
「でも、考えてみれば、変ですよね。甥の勇樹君はともかく、他の方々はどこへ行ったのでしょうか」
「そりゃ、勇樹に脅されて、きっと餓鬼どもの巣窟にでも拉致されたんだろう」
 竹林の中で見つけた遺構の入口が、頭に浮かんだ。
「でも、勇樹君、もうかなり餓鬼化が進んでいたんですよね。だとすれば、知能も獣なみに低下していたはず。言葉も満足にしゃべれないのに、1人ならともかく、3人もの人間に言うことを聞かせるなんて、そんなことができたんでしょうか」
「正直、勇樹の症状がどの程度のものなのか、俺にもよくわからないんだ。離れにはなかなか近づけなくて…」
 亜季の妨害もあった。
 文字通り身体を張った彼女の行動にどんな意図があったのか、いまだによくわからない。
 ただ、もしかしたら、と思う。
「それに、可能性はもう一つある。勇樹の双子の姉、亜季だ。一見、発病していないように見えて、実は彼女も、餓鬼たちの仲間だったんじゃないか。そう考えれば、妹と母の失踪にも筋道が見えてくる」
「うーん、でも、その考え方、明らかに、おかしいですよ」
 腕組みして首をかしげる菜緒。
「それじゃまるで、感染症の患者さんたちを、完全に化け物扱いしてるみたい」
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