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#367話 施餓鬼会㉜
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食事中に警察から電話があった。
もう一度話を聞きたいから、G市にある県警本部まで来てほしいという。
連絡はほぼ同時に菜緒の携帯にも入り、ふたりで県警に赴くことにした。
ある意味ちょうどいい。
作戦決行は夜だから、時間に余裕があるし、できれば警察の捜査の状況も聞きたかったのだ。
「G市までならこちらのほうが近いですよ」
住職に教えられ、裏の竹林の中の道を下る。
河原へ降りる道からYの字に分岐する脇道があり、そこをたどると5分ほどで駅へと続く県道に出るのだという。
更にちょうどそのあたりにバス停があるから、それに乗ったほうがJRの駅に行くよりはるかに早いらしい。
時刻表を調べてもらうと、30分後にちょうどG市行の便が停車することになっていた。
タイミングとしては、ちょうどいい。
「あんなところに祠がありますね」
分岐点に差し掛かったあたりで菜緒が左手のほうを指差した。
なるほど、下草に覆われた小高い崖の下に、成人の腰くらいの高さの古びた小屋が立っている。
小屋は崖面をえぐった中に半ば埋まるようにして設置されており、木製の格子の間から中のものが見えた。
それは、摩滅してもはや目鼻の位置もわからなくなった石づくりの地蔵だった。
何か強い衝撃を受けたのか、片側の頭部を壁につけ、斜めに傾いて今にも倒れそうになっている。
「ちょっと、気味が悪い」
菜緒のつぶやきに私もうなずいた。
かしいだ地蔵の背後は、そこだけ夜が凝り固まったかのような黒々とした闇だ。
何か得体のしれないモノが潜んでいてもおかしくない、そんな不気味な気配を醸し出している。
「和尚さまは気づいてないのかな。直してあげないと、罰があたりそう」
「今夜会った時に話しておくことにしよう」
なんとなく寒気を覚え、どちらからともなく急ぎ足になり、小道を下った。
ほどなくして視界が開け、県道に出たとわかった時にはほっとした。
5分とせずしてやってきたバスに乗り、県警へ。
事情聴取は別々の部屋で行われ、家族がいなくなったと知った時の状況を、昨日とは別の刑事から繰り返し聞かれた。
第一発見者が犯人ということもよくあるので、私も疑いをかけられているのかと思いきや、意外にもそうではなさそうだった。
こちらからしてみれば当然のことではあるが、
鶏小屋、井戸端の西瓜の残骸、勇樹の部屋の獣の肉片。
そういったものからは、私や菜緒の指紋は一切検出されなかったらしいのだ。
担当刑事との会話から他に分かったのは、母屋の冷蔵庫がまたも荒らされていたという事実だった。
「冷蔵庫を開ける知恵があるってことは、野良犬や野良猫の線は薄いかもね。署内でもやはり熊かなという声が高まってるよ」
熊などではなく、勇樹の仕業だとピンときたが、あえて黙っていることにした。
身内を売るのは心が痛むし、警察に教えるにしても、今晩の”捕り物”で本人を確保してからのほうがいいだろう。
そう思ったのだ。
2時間近い聴取を終えてロビーに降りると、待合室のソファから菜緒が腰を上げて手を振ってきた。
「ついでですから、G大の大学病院に寄っていきませんか? 感染症病棟には入れませんけど、同期の子たちが何人かインターンをやってるので、何か役に立つ話が聞けるかもしれません」
もう一度話を聞きたいから、G市にある県警本部まで来てほしいという。
連絡はほぼ同時に菜緒の携帯にも入り、ふたりで県警に赴くことにした。
ある意味ちょうどいい。
作戦決行は夜だから、時間に余裕があるし、できれば警察の捜査の状況も聞きたかったのだ。
「G市までならこちらのほうが近いですよ」
住職に教えられ、裏の竹林の中の道を下る。
河原へ降りる道からYの字に分岐する脇道があり、そこをたどると5分ほどで駅へと続く県道に出るのだという。
更にちょうどそのあたりにバス停があるから、それに乗ったほうがJRの駅に行くよりはるかに早いらしい。
時刻表を調べてもらうと、30分後にちょうどG市行の便が停車することになっていた。
タイミングとしては、ちょうどいい。
「あんなところに祠がありますね」
分岐点に差し掛かったあたりで菜緒が左手のほうを指差した。
なるほど、下草に覆われた小高い崖の下に、成人の腰くらいの高さの古びた小屋が立っている。
小屋は崖面をえぐった中に半ば埋まるようにして設置されており、木製の格子の間から中のものが見えた。
それは、摩滅してもはや目鼻の位置もわからなくなった石づくりの地蔵だった。
何か強い衝撃を受けたのか、片側の頭部を壁につけ、斜めに傾いて今にも倒れそうになっている。
「ちょっと、気味が悪い」
菜緒のつぶやきに私もうなずいた。
かしいだ地蔵の背後は、そこだけ夜が凝り固まったかのような黒々とした闇だ。
何か得体のしれないモノが潜んでいてもおかしくない、そんな不気味な気配を醸し出している。
「和尚さまは気づいてないのかな。直してあげないと、罰があたりそう」
「今夜会った時に話しておくことにしよう」
なんとなく寒気を覚え、どちらからともなく急ぎ足になり、小道を下った。
ほどなくして視界が開け、県道に出たとわかった時にはほっとした。
5分とせずしてやってきたバスに乗り、県警へ。
事情聴取は別々の部屋で行われ、家族がいなくなったと知った時の状況を、昨日とは別の刑事から繰り返し聞かれた。
第一発見者が犯人ということもよくあるので、私も疑いをかけられているのかと思いきや、意外にもそうではなさそうだった。
こちらからしてみれば当然のことではあるが、
鶏小屋、井戸端の西瓜の残骸、勇樹の部屋の獣の肉片。
そういったものからは、私や菜緒の指紋は一切検出されなかったらしいのだ。
担当刑事との会話から他に分かったのは、母屋の冷蔵庫がまたも荒らされていたという事実だった。
「冷蔵庫を開ける知恵があるってことは、野良犬や野良猫の線は薄いかもね。署内でもやはり熊かなという声が高まってるよ」
熊などではなく、勇樹の仕業だとピンときたが、あえて黙っていることにした。
身内を売るのは心が痛むし、警察に教えるにしても、今晩の”捕り物”で本人を確保してからのほうがいいだろう。
そう思ったのだ。
2時間近い聴取を終えてロビーに降りると、待合室のソファから菜緒が腰を上げて手を振ってきた。
「ついでですから、G大の大学病院に寄っていきませんか? 感染症病棟には入れませんけど、同期の子たちが何人かインターンをやってるので、何か役に立つ話が聞けるかもしれません」
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