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#366話 施餓鬼会㉛

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「どういうこと?」
 私は思わずそう尋ねていた。
「舌の代わりに、本体のほうに何かが入ってたって…でも、いったい何が?」
「私も秘仏公開のチラシは読みました。研究室の用事があって、当日は行けなかったんですけど…。でも、この蛇舌観音には、ひどく興味をそそられました。その奇怪な形状といい、背景にある不気味な伝承といい…。それで、この前河原で和尚さんたちにお会いして、秘仏盗難のお話を聞いて、その後、実際に舌の部分を見せていただいたりして自分でも何か因縁浅からぬものを感じ、その後も色々考えてはいたのですが…」
「野沢さんは、本体にも舌にも、両方に例の貝が入れられていたと、そうお考えということですか?」
「いえ、そうではなくて」
 住職の言葉を、菜緒はかぶりを振って否定した。
「あれから考え直したんです。貝は舌に入れられていたのではなく、本体のほうに入っていたんじゃないかって」
「え? こっちに?」
 私は目を丸くした。
 言われてみれば、空洞の大きさは舌のサイズとほぼ同じだから、ここに貝が詰め込まれていても不思議ではない。
 本体にあの貝が詰め込まれていたので、舌は中に入れられず、初めから外に出ていたと、そういうことか…?
 住職がもう一度席を立ち、今度はもっと細長い木箱を抱えて戻ってきた。
「しかし、そうすると、こちらのほうには何が?」
 木箱の中から出てきたのは、本体から外れた木製の舌である。
「さあ…?」
 首をかしげる菜緒。
 だが、なぜかその顔には、かすかに怯えるような表情が宿っている。
「そこまでは私にも…。ですが、ただひとつ言えることは、そこに入っていたのは、この秘仏にまつわる、例の尋常ならざる言い伝えに関係するものだったのではないか、ということです。例えば、その伝承を記した絵巻物とか、魔物を封印するお札とか、そういう呪物みたいなものとか…」
「うーん、あり得る話ではありますね」
 腕組みをして、住職が唸った。
「野沢さん、農学部の院生なのに、民俗学にも強いんですね」
「いえいえ、大したことはありませんです。こっちは趣味みたいなもんでして」
 菜緒が照れると、奥さんが戸口に顔をのぞかせた。
「お昼の準備ができましたけど、みなさん、うちで食べていかれるんですよね?」
「いいんですか?」
 住職の顔をうかがうと、
「もちろんです」
 という返事に、
「ありがたくいただきます」
 間髪を入れず、嬉しそうな菜緒の言葉が重なった。

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