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#364話 施餓鬼会㉙
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集会は村長の挨拶から始まり、予想通り話題は最近村内で頻発している謎の襲撃事件について、だった。
村長の報告によると、被害はG大の農業試験場やうちだけではなく、すでに数十件に上っているとのこと。
ペットを殺された家、出荷前の農作物を根こそぎにされた家、冷蔵庫の中身を食いつくされた家、幼児や寝たきりの老人が襲われた家など、その被害の様相はさまざまだ。
幸い、まだ死者は出ていなかったが、うちの妹たちのように行方不明になった者が十数名いるとのことだった。
消防団によるパトロールの強化、有志による山狩りなど様々な案が出され、議論は白熱したが、なぜか例の感染症との関連を疑う声は出ず、最後におまけのような保健所からの報告があり、感染症患者が増え続け、G大大学病院の病棟の数がひっ迫していること、感染は村内を流れる川の水に原因があるらしいので、今後釣りや遊泳は一切禁止する、などの厚生労働省からの指示を伝えた。
集会は、「野犬か熊のような害獣が複数出没しているので、不要不急の外出は控えること」で締めくくられ、1時間ほどで解散となった。
帰る村人でごった返す下駄箱の前で私と住職は猟友会の老人たちを待った。
村人は2人に1人か、あるいはそれ以上が高齢者だった。
目立たぬよう下駄箱の蔭に佇んでいると、爺さん婆さんにもみくちゃにされながら、小柄な娘が姿を現した。
案の定、野沢菜緒である。
「どうしたの?」
訊くと、
「一応私も村人なので」
真顔で菜緒はそう言った。
「それよりお二人こそ、どうなさったんですか?」
私はきょうの施餓鬼会法要が中止になったこと、だが、それでも例の計画は実行に移したいこと等を手短に話して聞かせた。
「まだ妹たちが帰ってこないんだ。少なくとも、餓鬼化した勇樹を捕まえれば、家族の行方がわかると思うんだ」
罠を仕掛ければ、飢えの収まらない勇樹のことである。必ずおびき寄せられてくるに違いない。
妹や母そして亜季が、勇樹の手で例の穴に連れこまれた可能性は高いだろう。
だが、警官の言葉通り、あれが戦時中の陸軍の遺構か何かで、内部が迷路のようになっているのだとしたら、素人の我々では手の打ちようがない。
警察にしても、道案内が居たほうが、捜査がしやすくなるのではないか。
そう思ったのだ。
「そういうことでしたら、私もお手伝いさせてください」
屈託なくそう言うと、菜緒はそこで少し眉を曇らせて、
「そういえば、お寺の例の秘仏について、あと一つ、気になることがあって…。一緒におうかがいしますので、和尚さん、あれの本体も、見せていただけませんでしょうか?」
「蛇舌観音のことですか? はあ、一般公開したばかりなので、それは別に、かまいませんけれど…」
「わあ、助かります」
菜緒が手を打って喜んだその時、待ち人たちが現れた。
村長や助役たちと今後の対策の打ち合わせでもしていたのだろう。
「おや、あんたたち」
目を丸くする老人たちを、住職が手招きした。
「あれ、決行します。今夜」
村長の報告によると、被害はG大の農業試験場やうちだけではなく、すでに数十件に上っているとのこと。
ペットを殺された家、出荷前の農作物を根こそぎにされた家、冷蔵庫の中身を食いつくされた家、幼児や寝たきりの老人が襲われた家など、その被害の様相はさまざまだ。
幸い、まだ死者は出ていなかったが、うちの妹たちのように行方不明になった者が十数名いるとのことだった。
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集会は、「野犬か熊のような害獣が複数出没しているので、不要不急の外出は控えること」で締めくくられ、1時間ほどで解散となった。
帰る村人でごった返す下駄箱の前で私と住職は猟友会の老人たちを待った。
村人は2人に1人か、あるいはそれ以上が高齢者だった。
目立たぬよう下駄箱の蔭に佇んでいると、爺さん婆さんにもみくちゃにされながら、小柄な娘が姿を現した。
案の定、野沢菜緒である。
「どうしたの?」
訊くと、
「一応私も村人なので」
真顔で菜緒はそう言った。
「それよりお二人こそ、どうなさったんですか?」
私はきょうの施餓鬼会法要が中止になったこと、だが、それでも例の計画は実行に移したいこと等を手短に話して聞かせた。
「まだ妹たちが帰ってこないんだ。少なくとも、餓鬼化した勇樹を捕まえれば、家族の行方がわかると思うんだ」
罠を仕掛ければ、飢えの収まらない勇樹のことである。必ずおびき寄せられてくるに違いない。
妹や母そして亜季が、勇樹の手で例の穴に連れこまれた可能性は高いだろう。
だが、警官の言葉通り、あれが戦時中の陸軍の遺構か何かで、内部が迷路のようになっているのだとしたら、素人の我々では手の打ちようがない。
警察にしても、道案内が居たほうが、捜査がしやすくなるのではないか。
そう思ったのだ。
「そういうことでしたら、私もお手伝いさせてください」
屈託なくそう言うと、菜緒はそこで少し眉を曇らせて、
「そういえば、お寺の例の秘仏について、あと一つ、気になることがあって…。一緒におうかがいしますので、和尚さん、あれの本体も、見せていただけませんでしょうか?」
「蛇舌観音のことですか? はあ、一般公開したばかりなので、それは別に、かまいませんけれど…」
「わあ、助かります」
菜緒が手を打って喜んだその時、待ち人たちが現れた。
村長や助役たちと今後の対策の打ち合わせでもしていたのだろう。
「おや、あんたたち」
目を丸くする老人たちを、住職が手招きした。
「あれ、決行します。今夜」
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