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#362話 施餓鬼会㉗

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 説明される前に、私もそれに気づいた。
 肉片の中に、灰色の毛皮の断片のようなものが混じっている。
 布団の周りを回ってみると、端のほうには前肢らしきものも落ちていた。
「たぶん、猫ちゃんですね。かわいそうに」
「うん…。それにこの血の量、おそらく一匹じゃない」
 町のほうからやってくるのか、このあたりにも野良猫は居る。
 野良犬はほとんど見かけないが、猫はうちの庭にもよく入り込んでくる。
 勇樹はそれを獲って食べていたのか。
「これが母さんたちの血じゃないとすると…みんな、いったいどこへ行ったんだ?」
 念のため、押し入れの中も調べてみたが、予備の布団が一組入っているだけで、他には何もない。
 勇樹だけじゃなく、餓鬼の群れに襲われて、どこかへ拉致されてしまったのだろうか?
「ひとまず外に出ませんか」
 鼻をつまんで菜緒が言った。
 布団を濡らした血は半ば乾きかけている。
 だが、生乾きの分、匂いが強いのだ。
「そうだね。足跡か、血の跡が残っているかもしれない」
 前庭に出ると、案の定、さっきは気づかなかった血の跡が点々と残っていた。
 茶褐色の滴の跡は不規則に続いており、鶏小屋をめぐって井戸のほうへと消えている。
 私たちは先ほどとは逆の道筋をたどり、井戸の脇から裏の竹林へと出た。
 このまま坂を下りていくと例の河原だが、血の跡はそれとは反対に、里山のほうへと向かっているようだ。
「誰かが通った痕跡がありますね」
 踏みしだかれた下草を見て、菜緒が言う。
 歩きながら携帯で警察に連絡し、更に数分、山に分け入った時だった。
 小高い崖を降りたところに、見上げるほどの大きさの巨石が土に埋まっているのが見えた。
 巨石と地面の間には腰をかがめれば辛うじて通れるほどの穴が開いていて、その前の土が踏み散らかされている。
「あの中…でしょうか」
 私の腕にすがりつくようにして、菜緒が言う。
「そうだね…。その可能性は、高い」
 餓鬼病の患者たちは、勇樹の例を見てもわかるように、ほとんど人間としての知性を失い、獣と化しているのだ。
「食べきれなかった食料を、あそこに保管しているのだとしたら…」
 しかし、中をのぞいてみても、真っ暗で数メートル先までしか見えなかった。
「懐中電灯が要るな」
 私のつぶやきに、激しく菜緒がかぶりを振った。
「やめたほうがいいと思います。危険すぎます。おまわりさんたちが来るのを待ちましょう」
 しがみついてくる細い腕から、恐怖の震えが伝わってきた。 
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