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#359話 施餓鬼会㉔
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住職が何件か電話を済ませると、それほど待たずにかなり高齢の猟師が2人、宿坊にやってきた。
「警察にも見回りしてくれって頼まれたけどなあ、こげに暑いんで昼間はやってられんよ」
「まあ、それでも和尚の頼みなら、聞いてやらんことはないけどなあ。で、わしらは何をすればいいんじゃ?」
そこからは私が説明を買って出た。
今朝早く、農業試験場の乳牛が襲われ、事態は一刻の猶予も許されないこと。
ただし、犯人を突き止めたいので、生け捕りにすることを優先し、罠を仕掛ける程度に留めること。
口には出さなかったが、後者の条件は超がつくほど重要である。
なんせ、私の推測が正しければ、いくら正気を失っているとはいえ、犯人は人間なのだ。
猟銃で撃ち殺したり、刃物で怪我をさせるなど、もってのほかだろう。
この実験の対象になるのは、G市の大学病院に入院していない、いわばフリーの感染症患者たちである。
この村には、うちの勇樹と同様、夜な夜な家を抜け出し、食べ物を求めて外をさ迷っている者が一定数居るに違いない。
日常生活においてはなかなか尻尾を出さない彼らを捕獲して、世間にその存在を知らしめる。
そうすることによって、腰の重い行政を動かすというのが、私の狙いなのだ。
最初は怪訝そうだった老人たちだが、具体的な罠の選定に話が移ると、俄然乗り気になった。
ある程度案が決まると、
「そういうことなら、さっそく準備してくるわ」
と2人肩を並べて帰って行った。
決行は明日の施餓鬼会法要の後。
彼らが行動するのはおそらく深夜だろうから、罠の設置はそれからでも十分間に合うはずだ。
「これからどうするんですか?」
帰り道、菜緒が訊いてきた。
気心も知れてきたので、私は事情を打ち明けることにした。
「実はうちにも、餓鬼病に罹患してる子供がひとりいるんだ」
「そうだったんですか」
「中学生の男の子なんだけど、おとといあたりから様子がおかしくて」
冷蔵庫の一件を話し、ゆうべ、寝たきりの父を襲ったのも彼ではないかと疑っていることも説明した。
「何か手を打たないと、今夜また、やっかいな事件が起こりかねない」
父はとりあえずG市の病院に入院しているから安全だとしても、まだ母や妹がいる。
あと、亜季だが、彼女はどうしても、被害者候補とは思えなかった。
いやそれどころか、むしろ…。
年齢を超越した妖艶さを身にまとった少女。
昨夜の出来事を思い出すだけで、複雑な気分になる。
また誘惑されたら、どうしよう。
私ははたして、彼女の誘惑に抗うことができるだろうか。
そうだ。
抑止力として、菜緒を同伴するのもいいかもしれない。
「一緒に来てくれないかな」
傍らを歩く小柄な女性に、私は言った。
「勇樹のやつ、ひとが変わったみたいになってて、どうも一対一で対面する気になれないんだ」
「警察にも見回りしてくれって頼まれたけどなあ、こげに暑いんで昼間はやってられんよ」
「まあ、それでも和尚の頼みなら、聞いてやらんことはないけどなあ。で、わしらは何をすればいいんじゃ?」
そこからは私が説明を買って出た。
今朝早く、農業試験場の乳牛が襲われ、事態は一刻の猶予も許されないこと。
ただし、犯人を突き止めたいので、生け捕りにすることを優先し、罠を仕掛ける程度に留めること。
口には出さなかったが、後者の条件は超がつくほど重要である。
なんせ、私の推測が正しければ、いくら正気を失っているとはいえ、犯人は人間なのだ。
猟銃で撃ち殺したり、刃物で怪我をさせるなど、もってのほかだろう。
この実験の対象になるのは、G市の大学病院に入院していない、いわばフリーの感染症患者たちである。
この村には、うちの勇樹と同様、夜な夜な家を抜け出し、食べ物を求めて外をさ迷っている者が一定数居るに違いない。
日常生活においてはなかなか尻尾を出さない彼らを捕獲して、世間にその存在を知らしめる。
そうすることによって、腰の重い行政を動かすというのが、私の狙いなのだ。
最初は怪訝そうだった老人たちだが、具体的な罠の選定に話が移ると、俄然乗り気になった。
ある程度案が決まると、
「そういうことなら、さっそく準備してくるわ」
と2人肩を並べて帰って行った。
決行は明日の施餓鬼会法要の後。
彼らが行動するのはおそらく深夜だろうから、罠の設置はそれからでも十分間に合うはずだ。
「これからどうするんですか?」
帰り道、菜緒が訊いてきた。
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「実はうちにも、餓鬼病に罹患してる子供がひとりいるんだ」
「そうだったんですか」
「中学生の男の子なんだけど、おとといあたりから様子がおかしくて」
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私ははたして、彼女の誘惑に抗うことができるだろうか。
そうだ。
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