超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
367 / 462

#343話 施餓鬼会⑧

しおりを挟む
 母屋の裏手は竹やぶになっていて、そこを抜けると道は下り坂になり、大きな岩のゴロゴロ転がる河原へと続く。
 川幅50メートルほどのその川は、上流にあるダムから流れてくる水をたたえて静かに澄んでいる。
 もう少し下流に行くと、6月から解禁になった鮎釣りにいそしむ釣り人が増えてくる。
 昔から小中学生の遊び場になっているこのあたりは、特に川幅が広く、水の流れも遅い。
 大きな岩が川の中にも点在しているため、休憩場所にも事欠かず、絶好の川遊びスポットなのだ。
 カンカン照りの陽光に焼かれながら河原に下りると、”遊泳禁止”の看板が立っていた。
 即席のその看板の向こうでは、作業着姿の男たちが数人、中腰になって何やら調べている。
 保健所の調査員だろうか。
「何かわかりましたか?」
 ぶしつけとは思いながらも、好奇心が先に立って、つい私はそうたずねていた。
 一番近くに居たその相手は唯一の女性で、一人だけ違う作業服を着ており、髪を後ろで束ね、眼鏡をかけている。
 長靴を履いて浅瀬に佇むその姿は、小柄で化粧っ気がなく、まるで中高生のように見えた。
「え? えーっと」
 女性は急に話しかけられ、目を丸くして振り向いたが、
「あの、私はあちらの方々とは違うんで」
 と、すぐにきまり悪そうに微笑んでみせた。
「向こうはG市の市役所の保険課からいらっしゃった調査員の方々で、川の水質を調べています」
「それは…やっぱり、きのうのあの事件の関係で、ですかね」
「そうだと思います。感染症とか、ノロウイルスとか、色々言われていますから」
「それで、あなたは?」
 彼女の肩から下がっているプラスチックの水槽みたいなものに気づき、私はたずねた。
 その透明な箱の中には半分ほど水が入っていて、底のほうに黒い石ころのようなものが転がっている。
「私は野沢菜緒と申しまして」
 女性がそばかすだらけの顔を私に向け、答えた。
「G大農学部の院生です」
「農学部、ですか」
「は、はい。うちの研究室では、代々この川の生態系を研究しておりまして」
「川の生態系? ほう、それが何か、今回の事件と」
「私の調査と事件とは直接関係ありません。私が今日ここにいるのは、ほんと、たまたま、なんですけど…」
「けど…?」
「ああ、いいえ、なんでもないです」
 急に背を向け、逃げるように歩き出す女性。
「憶測でものを言うなって普段から教授にきつく言われてますので。私はこれで」
 そう言い残すなり、小走りに巨石と巨石の間に姿を消してしまった。
「変なやつ」
 苦笑いが込み上げてきた。
 しかし、気になることもある。
 彼女が採取していたあの黒いもの。
 あれは、いったい…何だったのだろう?
 
 
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

処理中です...