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第307話 深夜の産声(前編)

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 真夜中に目が覚めた。
 まただ…。
 私は青くなった。
 かすかに聞こえるのは、赤ん坊の泣き声。
 うちに、赤ん坊なんて、いないはずなのに…。
 あの声を聴くのは、今夜で二度目である。
 一度目は、一週間ほど前。
 やはり、深夜のことだった。
 あの時は疲れていたし、気のせいだろうと無理やり自分に言い聞かせて、結局、眠ってしまった。
 でも、きょうは違う。
 なんだか、目が冴えて眠れる気がしないのだ。
 その弱々しい泣き声は、一定の方角から聴こえてくるようだ。
 気味が悪かった。
 布団を頭からかぶって、目をつぶる。
 両手で耳をふさぐけど、まだだめだ。
 ほぎゃあ、ほぎゃあ、ほぎゃあ…。
 今にも消え入りそうなそのか細い泣き声は、頭の中に直接聴こえてくるように、耳にこびりついて離れない。
 耳から手を離してみた。
 まだ聴こえている。
 どうやら、幻聴ではなさそうだ。
 私は心の中でため息をついた。
 こうなったら、正体を確かめよう。
 心霊現象なのかどうか、わからないけど…。
 せめて、どこから聴こえてくるかだけでも、突き止めるのだ。
 思い切って布団から出、戸口まで立って行って柱のスイッチをオンにした。
 ぱっと明かりが点き、目の前に見慣れた和室が浮かび上がる。
 それと同時に、泣き声は途絶えたようだった。
 突っ立ったまま、しばらく耳を澄ませてみたけど、もう何も聞こえない。
 確か、あの声は、こっちのほうから…。
 見当をつけておいたほうへ、目を向けた。
 そこは、押し入れだった。
 まさか、と思う。
 寝る前に、寝具を出した時には、何もなかったのだ。
 隅々まで覗いたわけではないので断言はできないが、少なくとも、赤ん坊なんていなかったはずである。
 手を伸ばしかけ、あわててひっこめた。
 無理。
 本能的に、そう思った。
 開けるのが、怖かった。
 さっき。布団を出す時はなんでもなかったのに、今は押し入れの襖が恐ろしい異界への扉のように思え、近づくことさえ、ままならない、
 仕方ない。
 夫に相談しよう。
 笑われるかもしれないけれど、このまま不眠症になるよりましだろう。
 夫は私と違って、完全な夜型人間だ。
 この時間なら、彼はまだ、階下の書斎で仕事をしているはずである。
 私は押し入れの襖を開けるのを諦め、部屋を出て1階への階段を降り始めた。


 
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