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第301話 古井戸

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 Kと俺は高校時代からの親友で、大学生になって暇ができると、ふたりで廃墟めぐりをするようになった。
 とはいっても、動画を撮ってユーチューブにあげるとか、そんなに本格的なものではなく、せいぜいがインスタに写真をアップするくらいのレベルである。
 これは、昨年の夏休みの話。
 Kが見つけてきたのは、同じ県内にある廃村だった。
 村全体が過疎化して、今は住む人もいないという。
 さっそく行ってみることにした。
 小さな山と山の間にあるその土地は、見るからにさびれており、家々の大半は壊れて傾いていた。
 昔は目抜き通りだったと思われる道を上がっていくと、突き当りが廃寺の山門だった。
 ここも人気がなく、本堂の中は泥棒でも入ったのか、仏像ひとつ見当たらない始末である。
 その本堂の裏に、井戸があった。
「なんか変な匂い、しないか?」
 Kが言って、井戸に近づいた。
「やめようぜ。写真もたくさん撮ったし、もう帰ろう」
 嫌な予感がして、俺は言った。
 ここまで人気のない場所に長時間いると、さすがに精神が病んできそうな気がした。
 よく晴れた午後で、頭上にはさわやかな夏空が広がっているのだけれど、なぜだかこのあたり一帯だけ、薄いベールでもかかったように景色が黒ずんでいる。
「中に水がある」
 よせばいいのに、井戸を覗き込んでKが言う。
「不思議だな、とっくに涸れ井戸になっててもおかしくないはずなのに」
「よ、よせよ」
 僕が思わず叫んだのは、Kがその後、中に石ころを投げ落としたからだった。
 ぽちゃん。
 遠くで水音がしたかと思ったその瞬間である。
「うわっ!」
 Kが悲鳴を上げた。
 見ると、井戸の中から赤黒い液体に濡れた腕が伸びて、Kの手首をつかんでいる。
「た、助けて!」
 必死の形相で俺に助けを求めるK。
 俺は凍りついた。
 恐怖で身体が動かない。
 それでも、なんとか気力をふり絞って、Kの背中に抱きついた。
 もみ合うこと数分。
 ふいに引っ張る力が緩んで、俺はKを抱きかかえたまま、後ろにひっくり返った。
「びびった」
 Kが泣き笑いの表情で俺を見た。
「助かったよ。ありがとう」
 その右手首にははっきり指の痕とわかる青黒い痣ができ、腕は肘のあたりまで赤茶色の液体に濡れている。
 血だった。
 井戸の底には、なぜか大量の血がたまっていたのだ。


 その後、古い郷土史を調べて、俺はその村の秘密を知った。
 村には、廃村になる寸前まで、ある忌まわしい風習があったのだという。
 間引き、である。
 ほとんどが公的扶助の対象である村人たちには生活に余裕がなく、赤ん坊や高齢者たちを殺していたというのだ。
 そう。
 邪魔者をすべて、あの井戸に放り込むことで…。

 あの体験を機に、俺とKは疎遠になった。
 Kが原因不明の病気で死んだと聞いたのは、それから1年経った、つい先日のことである。
 
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