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第295話 離島怪異譚⑭
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「お、脅かさないでくださいよォ…」
野崎の顔が引きつった。
私も同様だった。
晴馬の一言を受け、身体の芯で、何かがぞろりと動いたような気がした。
昨夜のあれ…。
あれが、夢じゃなかったとしたら、私も野崎と同じ状況に置かれているのかもしれないのだ。
「お、俺、風呂、入ってきます」
野崎が立ち上がった。
「うちは見ての通り大所帯だから大浴場があるが、混浴だから気をつけろよ」
「混浴、ですか」
野崎の目が点になる。
「ああ、慣れればなんちゅうこともないさ。場所は廊下を鍵の手に曲がった突き当り。海魔に躰を乗っ取られんうちに、さあ、行った行った!」
「は、はいいっ!」
野崎が飛び出していくと、
「あんたも念のため、入っといたほうがいいな。なんか、顔色も悪いし」
「え、ええ。彼が戻ってきたら、すぐ」
混浴なんてあまり気が進まないが、この際仕方がない。
下着が愛液で汚れていたのは淫夢のせいと片付けられないこともないけど、乳首や陰部の奥に残る触手の疼き。
そして、何よりも身体中についた赤痣。
それらの証拠は、私も昨夜、さっきの野崎同様、海魔に襲われたことを意味しているのではないか?
「その前に、ちょっと、お話を聞かせていただけませんか? この下の洞窟で起きた二件の猟奇殺人について。ふたりの被害者のご遺体を発見したのって、ひょっとして、朝倉さん、あなたなのではありませんか?」
気を取り直して、私は訊いた。
「ああ、あれは俺じゃないが、確かにこの家の者じゃよ」
話してくれる気になったのか、畳の上に胡坐をかいて晴馬が言った。
「あの洞窟はあわびの住処にもなっちょってな、女どもが交代で採りに行くんじゃ。その一人が、見つけた」
「女子大生と主婦、どちらも同じ方が?」
「確かそうじゃ。どっちも咲さんじゃった。運が悪いというかなんというか…」
「そのサキさんとやらに、会わせていただけませんか?」
「う~ん、ちょっと無理じゃな。彼女、最近顔出さんのじゃ。警察に色々聞かれて、かなり参っとったからな」
「そうなんですか…。この近くにお住まいなら、後ほど、ぜひ訪ねてみたいんですけど」
「それはかまわんけど…」
晴馬に教えられた住所は、ここからほど近い山側の集落だった。
「できれば、この島に伝わる伝説みたいなものも、お教えいただきたいんですけど。下の洞窟とか、その、海魔とかについて…」
私自身、怪談話やオカルトを信じるほうではない。
だが、今回ばかりはそうも言っていられないのだ。
私自身、この世のものならざる何かを目撃していたし、それに襲われたこともまた確かだからだ。
ふたつの事件と海魔には、必ず深い関係があるに違いない。
「そういうことなら、じっちゃを呼んでくるべ。この村で一番年寄りのじっちゃなら、島の言い伝えについて色々知っとるからな」
晴馬が言い、ちょっくらお待ちを、と言い残して廊下へと出て行った。
野崎の顔が引きつった。
私も同様だった。
晴馬の一言を受け、身体の芯で、何かがぞろりと動いたような気がした。
昨夜のあれ…。
あれが、夢じゃなかったとしたら、私も野崎と同じ状況に置かれているのかもしれないのだ。
「お、俺、風呂、入ってきます」
野崎が立ち上がった。
「うちは見ての通り大所帯だから大浴場があるが、混浴だから気をつけろよ」
「混浴、ですか」
野崎の目が点になる。
「ああ、慣れればなんちゅうこともないさ。場所は廊下を鍵の手に曲がった突き当り。海魔に躰を乗っ取られんうちに、さあ、行った行った!」
「は、はいいっ!」
野崎が飛び出していくと、
「あんたも念のため、入っといたほうがいいな。なんか、顔色も悪いし」
「え、ええ。彼が戻ってきたら、すぐ」
混浴なんてあまり気が進まないが、この際仕方がない。
下着が愛液で汚れていたのは淫夢のせいと片付けられないこともないけど、乳首や陰部の奥に残る触手の疼き。
そして、何よりも身体中についた赤痣。
それらの証拠は、私も昨夜、さっきの野崎同様、海魔に襲われたことを意味しているのではないか?
「その前に、ちょっと、お話を聞かせていただけませんか? この下の洞窟で起きた二件の猟奇殺人について。ふたりの被害者のご遺体を発見したのって、ひょっとして、朝倉さん、あなたなのではありませんか?」
気を取り直して、私は訊いた。
「ああ、あれは俺じゃないが、確かにこの家の者じゃよ」
話してくれる気になったのか、畳の上に胡坐をかいて晴馬が言った。
「あの洞窟はあわびの住処にもなっちょってな、女どもが交代で採りに行くんじゃ。その一人が、見つけた」
「女子大生と主婦、どちらも同じ方が?」
「確かそうじゃ。どっちも咲さんじゃった。運が悪いというかなんというか…」
「そのサキさんとやらに、会わせていただけませんか?」
「う~ん、ちょっと無理じゃな。彼女、最近顔出さんのじゃ。警察に色々聞かれて、かなり参っとったからな」
「そうなんですか…。この近くにお住まいなら、後ほど、ぜひ訪ねてみたいんですけど」
「それはかまわんけど…」
晴馬に教えられた住所は、ここからほど近い山側の集落だった。
「できれば、この島に伝わる伝説みたいなものも、お教えいただきたいんですけど。下の洞窟とか、その、海魔とかについて…」
私自身、怪談話やオカルトを信じるほうではない。
だが、今回ばかりはそうも言っていられないのだ。
私自身、この世のものならざる何かを目撃していたし、それに襲われたこともまた確かだからだ。
ふたつの事件と海魔には、必ず深い関係があるに違いない。
「そういうことなら、じっちゃを呼んでくるべ。この村で一番年寄りのじっちゃなら、島の言い伝えについて色々知っとるからな」
晴馬が言い、ちょっくらお待ちを、と言い残して廊下へと出て行った。
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