超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

戸影絵麻

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第286話 穢れた英雄④

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「ご明察」
 お龍がうなずいた。
「じゃあ、どうすれば臭いうんちをすることができるか、知ってる?」
「そ、それは…」
 サトシは思い出した。
 臭いものを食べることだ。
 たとえば餃子やキムチを食べた後は、オナラが臭くなる。
 あれとおなじことだろう。
「餃子を食べればいいんだな。あるいはキムチや納豆とか」
「ふん、甘いわね」
 ばかにするようにお龍が鼻を鳴らした。
「X星人のラスボスを倒すんでしょ? その程度のもので互角に戦えると思ってるの?」
「だ、だめなのか?」
「くさやの干物でも足りないぐらいだわ」
 くさやの干物は一度食べたことがある。
 父親が社員旅行で伊豆に行った時、土産に買ってきたのだ。
 焼いただけで家中がうんち臭くなる、まさに地獄の食べ物だった。
 でも、お龍はあれでも足りないと言う。
「じゃ、どうしたら…?」
「世界一臭い食べ物、それを食べるしかない」
「世界一臭い食べ物…? なんなんだ、それは」
「シュールストレミング」
 お龍が、聞き慣れない名詞を口にした。
「シュール、なんだって?」
「シュールストレミング。スウェーデン産のニシンの塩漬けを、缶に入れて発酵させた食品よ。  世界一臭い食べ物として有名で、開缶と同時に噴出するガスで、失神する人までいると言われている」
「そ、そんなもの、どこに…?」
「デパ地下の食品売り場なら、あるいは」
 お龍の眼が光った。
「探すの手伝うから、さっそく特訓開始しましょ」

  幸い、近所の倒壊したデパートの地下に、それは埋まっていた。
 瓦礫に埋もれた輸入品専門の食料品コーナーに、10個ほど缶詰が残っていたのだ。
 廃工場に持って帰ると、一番端っこの安全地帯まで退却して、お龍が命じた。
「開けて」
「う、うん」
 プルトップの缶の蓋を引き開けたとたんである。
「ぐわっ!」
 バキュームカーが爆発したような悪臭に、サトシは文字通り吹っ飛んだ。
「くっさ!」
 見ると、100メートルは離れているのに、お龍も身体をふたつに折ってむせている。
「聞きしに勝る臭さね。死人が出るのもわかる気がするわ」
「こ、これを食べろと言うのか…? しかも、10個も」
 口と鼻をを手のひらで塞ぎ、サトシは匍匐前進で問題の缶詰に近づいた。
「世界を救うためよ」
 ハンカチで顔の下半分を覆い、お龍が言う。
「違う。そうじゃない」
 サトシはきっぱりと首を振った。
「そんなきれいごとでは、ヒーローなんてやってられないよ。俺はもっと、具体的な褒美を要求する」
「具体的な、褒美? たとえば?」
「お龍。おまえのその体だ。バージンと言い換えてもいい」
「はっ、何言ってんの? あたしとっくの昔に処女捨ててるんだけど」
 お龍が嘲るように言った。
「な、なんだと?」
 サトシはうめいた。
 依って立つ大地が、ふいに激しく揺らいだ気がした。
 同じ小学生でも、お龍と僕とでは、住む世界が違っていたんだ。
 サトシはその事実に打ちのめされていた。
 サトシがたわいのないアニメや動画にうつつを抜かしている間に、お龍はしっかり大人への階段を登っていたのである。
 がっくりとサトシが膝からコンクリートの冷たい床に崩れ落ちた時だった。
「スーパーヒーローはいねえかあ? いうごときかねえ、スーパーヒーローはいねえがあ?」
 空から野太い声が降ってきた。
「たいへん!」
 お龍が青ざめた。
「サトシ、急いで! 敵襲よ! ラスボスがあなたを探しに来たんだわ!」
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