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第276話 墓参り

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 実家に帰ったついでに、墓参りに行った。
 僕の家のお墓は山の中腹にあるから、当然のことだが、山道をけっこうな距離、歩かねばならない。
 よく晴れた初夏の午後のことで、墓地の入口につく頃には汗だくになってしまっていた。
 小学校の運動場くらいの面積の空間に、大小さまざまな墓石がひしめく中、一族の墓を探して歩く。
 墓石はどれもかなり古びていて、表面が苔むして刻まれている文字が読めないのも多い。
 乱立する墓石の間を縫って歩くのは、さながら脱出ゲームの迷路を探索する気分だった。
 ようやく探し当てたのは、墓地のほぼ真ん中あたりにたどり着いた頃のことである。
「あった」
 目当ての墓石の前にへなへな座り込むと、僕は額の汗を手の甲で拭い、大きく安堵の息を吐いた。
 墓地は木々に囲まれていて、そのあたりから気の早いセミの鳴き声が潮騒のように遠く近く聴こえてくる。
 時折吹く風は汗ばんだ肌に心地よく、その瑞々しい匂いに、「風薫る」とはまさにこのことだなと思う。
 気を取り直して持参したペットボトルの水を墓石にかけ、中腰になって合掌した。
 墓には祖父母のほかに、昨年他界した母が眠っている。
 死因は癌で、見つかった時にはすでにステージ4で手遅れの状態だった。
 目を閉じ、両手を合わせて祈る。
 1年経つと悲しみも少し薄れている。
 むしろ、先に逝った父とあの世で再会できて、幸せだったのではないかとも思う。
 そんなことを考えていると、ふと隣に人の気配がした。
 驚いて目を開けた僕は、すぐ左横にうずくまる人物を見て思わず小さくうめいてしまった。
 そこにいたのは和服姿の初老の女性で、その横顔は紛れもなく、今は墓の中で眠っているはずの母である。
「か、母さん…な、なんで・・・?」
 更に驚きだったのは、その僕の問いかけに対する相手の反応だった。
「か、和夫、あ、あんたこそ、どうして…?」
「はあ? どういうこと? 母さん、去年の春、死んだはずだろ?」
 言い募る僕に、生前の勢いを取り戻した母が言い返してきた。
「何言ってんだよ! 去年死んだのはあんたのほうだよ! あたしゃ、あんたのお墓参りに来たんだから」
「なんだって?」
 僕は愕然とした。
 死んだのは、僕のほう…?
 こうなると、もう、わけがわからない。
「嘘だと思うなら、ここをよく見てみ」
 母が墓石の側面を指差した。
「あ」
 ひと目見て、僕は絶句した。
 祖父母、父の名前の隣に刻まれているのは母の名ではなく、紛れもないこの僕の名前だったのである。 
 
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