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第270話 闇に這うもの(前編)
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そこは地下通路をくぐった先にある墓地に面した廃病院で、うっそうとした森に囲まれていた。
しかも近畿地方の太平洋側にあるこの土地は、ただでさえ降水量が多く、じめついている。
そんな所をわざわざ選んで肝試しをするやつの気が知れないのだが、僕らのサークルはそもそも”怖いもの研究会”を名乗っている以上、この心霊スポットは避けて通れないのだった。
サークルと言っても、メンバーは6人。
3年生の斉木と僕、そして石井。
あとは2年生の女子の山形さんと今年の春入った1年生の浜田さんと並木さん。
こういう時常にノリノリなのは部長の斉木で、撮影係の石井もすぐそれに乗っかっていく。
女子3人はみんな最初はおっかなびっくりといった感じだったのだけれど、場数を踏むうちに大胆になっていくのが不思議だった。
結局いつまでも怖がりが抜けないのは僕独りで、山形さんに「しっかりしなさいよ!」と気合を入れられる始末。
今回もそうだった。
連休を利用して集まった僕らは、さっそく廃病院探検へと繰り出したのだが、名物の地下通路を抜け、墓地の奥にある廃病院の前に到着した時には、僕は早くも帰りたくなっていた。
霧雨の向こうに現れたその建物はいかにも廃墟でございといった感じで、怖気をふるうほど怖かったのだ。
折しも時刻は夕方5時を過ぎようとしていて、中を探索しているうちに日が暮れるのは間違いなかった。
「やべー」
石井が歓声を上げ、嬉々とした表情で自撮り棒につけたスマホを建物に向ける。
「ここ、20年前までは精神病院だったんだって。ホラーの舞台装置としては完璧だと思わないか?」
自分の手柄のように得意げな口調で斉木が言った。
「なんか全体の雰囲気がどんよりしてるよね。あの建物だけ、違う次元に落ち込んだ感じっていうか」
眼鏡を人差し指で押し上げ、山形さんはしげしげと廃病院を観察している。
その理知的な横顔は、きめの細かい肌と相まってドキドキするほど魅力的だ。
斉木たちはどんな時でもクールな彼女をアンドロイド美女とか呼んで揶揄するが、僕はそこに惹かれるのだ。
「本当でこんなとこに入るんですかあ」
「やだあ、お化けが出たらどうしよう」
双子のような1年生たちは抱き合って騒いでいる。
嫌だといいながら眸を輝かせているところが僕と違い、このシチュエーションを楽しんでいる証拠である。
「何はともあれ、暗くならないうちに探検だ。今回の動画、バズること間違いないからな」
肩を怒らせ、斉木が先に立って歩き出す。
やつは僕らの活動をSNSに上げて小遣いを稼ぎ、そのアガリでコンパを開催したりしているのだ。
「みんな、マスクするの忘れないで。古い建物はアスベスト使ってるから、吸い込んだらアウトだよ」
山形さんに注意され、僕らはそれぞれ持参したお気に入りのマスクを装着して建物に足を踏み入れた。
廃病院は正面入り口の自動ドアも取り外され、誰でも出入り自由の状態だ。
正面ロビーはなぜか砕けたガラスや瓦礫で足の踏み場もないほどだった。
一度解体しかけて中止になったのか、壁も所々破壊された跡がある。
1階を回ったが、特に何事もなかった。
埃だらけの廊下がコの字を形作っていて、そこに扉のない部屋がいくつもいくつも並んでいるだけだ。
「よし、次は2階だ」
階段の下に立って、斉木が言った時だった。
「あれ、何だと思う?」
ガラスの割れた窓から差し込む最後の一筋の陽射し。
その中に浮かび上がったものを指差して、山形さんがつぶやいた。
2階への階段の一部が、鈍い銀色に光っている。
階段を上りながら、誰かが何かをこぼして行ったのか、あるいはその逆かー。
「何かわからないけど、このネバネバ、新しいよ」
段々に付着した半透明の液体に懐中電灯の光を向けて、山形さんが言葉を継いだ。
しかも近畿地方の太平洋側にあるこの土地は、ただでさえ降水量が多く、じめついている。
そんな所をわざわざ選んで肝試しをするやつの気が知れないのだが、僕らのサークルはそもそも”怖いもの研究会”を名乗っている以上、この心霊スポットは避けて通れないのだった。
サークルと言っても、メンバーは6人。
3年生の斉木と僕、そして石井。
あとは2年生の女子の山形さんと今年の春入った1年生の浜田さんと並木さん。
こういう時常にノリノリなのは部長の斉木で、撮影係の石井もすぐそれに乗っかっていく。
女子3人はみんな最初はおっかなびっくりといった感じだったのだけれど、場数を踏むうちに大胆になっていくのが不思議だった。
結局いつまでも怖がりが抜けないのは僕独りで、山形さんに「しっかりしなさいよ!」と気合を入れられる始末。
今回もそうだった。
連休を利用して集まった僕らは、さっそく廃病院探検へと繰り出したのだが、名物の地下通路を抜け、墓地の奥にある廃病院の前に到着した時には、僕は早くも帰りたくなっていた。
霧雨の向こうに現れたその建物はいかにも廃墟でございといった感じで、怖気をふるうほど怖かったのだ。
折しも時刻は夕方5時を過ぎようとしていて、中を探索しているうちに日が暮れるのは間違いなかった。
「やべー」
石井が歓声を上げ、嬉々とした表情で自撮り棒につけたスマホを建物に向ける。
「ここ、20年前までは精神病院だったんだって。ホラーの舞台装置としては完璧だと思わないか?」
自分の手柄のように得意げな口調で斉木が言った。
「なんか全体の雰囲気がどんよりしてるよね。あの建物だけ、違う次元に落ち込んだ感じっていうか」
眼鏡を人差し指で押し上げ、山形さんはしげしげと廃病院を観察している。
その理知的な横顔は、きめの細かい肌と相まってドキドキするほど魅力的だ。
斉木たちはどんな時でもクールな彼女をアンドロイド美女とか呼んで揶揄するが、僕はそこに惹かれるのだ。
「本当でこんなとこに入るんですかあ」
「やだあ、お化けが出たらどうしよう」
双子のような1年生たちは抱き合って騒いでいる。
嫌だといいながら眸を輝かせているところが僕と違い、このシチュエーションを楽しんでいる証拠である。
「何はともあれ、暗くならないうちに探検だ。今回の動画、バズること間違いないからな」
肩を怒らせ、斉木が先に立って歩き出す。
やつは僕らの活動をSNSに上げて小遣いを稼ぎ、そのアガリでコンパを開催したりしているのだ。
「みんな、マスクするの忘れないで。古い建物はアスベスト使ってるから、吸い込んだらアウトだよ」
山形さんに注意され、僕らはそれぞれ持参したお気に入りのマスクを装着して建物に足を踏み入れた。
廃病院は正面入り口の自動ドアも取り外され、誰でも出入り自由の状態だ。
正面ロビーはなぜか砕けたガラスや瓦礫で足の踏み場もないほどだった。
一度解体しかけて中止になったのか、壁も所々破壊された跡がある。
1階を回ったが、特に何事もなかった。
埃だらけの廊下がコの字を形作っていて、そこに扉のない部屋がいくつもいくつも並んでいるだけだ。
「よし、次は2階だ」
階段の下に立って、斉木が言った時だった。
「あれ、何だと思う?」
ガラスの割れた窓から差し込む最後の一筋の陽射し。
その中に浮かび上がったものを指差して、山形さんがつぶやいた。
2階への階段の一部が、鈍い銀色に光っている。
階段を上りながら、誰かが何かをこぼして行ったのか、あるいはその逆かー。
「何かわからないけど、このネバネバ、新しいよ」
段々に付着した半透明の液体に懐中電灯の光を向けて、山形さんが言葉を継いだ。
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