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第284話 交通事故
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「危ないわねえ」
ハンドルを握っている妻が眉をひそめた。
急なカーブに差し掛かったところで、すぐ前を一台の車が走っている。
問題はその車だった。
サンルーフを開けて、上半身裸の若者がふたり、身を乗り出しているのである。
何が楽しいのか、あるいは酔っぱらってでもいるのか、大声で騒いでいる。
「この先って、確か…」
記憶をたどって私が言うと、
「そうなのよ」
と妻がうなずいた。
案の定、カーブを曲がり切ると、すぐにトンネルが見えてきた。
私の記憶が確かなら、あのトンネルは、ずいぶんと短くって、しかも、天井が低かったはずだ。
「あーあ、言わんこっちゃない」
妻がつぶやくのと、前の車がトンネルに突っ込むのとが、ほとんど同時だった。
ガツン!
嫌な音がして、前の車の屋根から若者たちの姿が消えた。
ぐしゃっ。
ひと呼吸置き、私たちの車のフロントガラスで熟柿の潰れるような音が響く。
「うわっ」
思わず叫んだ時には、すでに車はトンネルを抜けていた。
「困ったわね。ワイパー動かせば、はがせるかしら」
汚れ、ひびの入ったフロントガラスを見て、憮然とした表情で妻が言った。
返事をしようとしたが、恐怖で声が出なかった。
恨めしげな二対の目が、ガラス越しに私を見つめている。
目の前に貼りついているのは、首の付け根から切断され、私たちの車のフロントガラスに激突して潰れた、あの若者たちの顔だったのである。
ハンドルを握っている妻が眉をひそめた。
急なカーブに差し掛かったところで、すぐ前を一台の車が走っている。
問題はその車だった。
サンルーフを開けて、上半身裸の若者がふたり、身を乗り出しているのである。
何が楽しいのか、あるいは酔っぱらってでもいるのか、大声で騒いでいる。
「この先って、確か…」
記憶をたどって私が言うと、
「そうなのよ」
と妻がうなずいた。
案の定、カーブを曲がり切ると、すぐにトンネルが見えてきた。
私の記憶が確かなら、あのトンネルは、ずいぶんと短くって、しかも、天井が低かったはずだ。
「あーあ、言わんこっちゃない」
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ガツン!
嫌な音がして、前の車の屋根から若者たちの姿が消えた。
ぐしゃっ。
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「うわっ」
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