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第256話 自殺未遂
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学校からの帰り道。
橋の途中で、欄干から身を乗り出している若い女性を見かけた。
景色、眺めてるのかな?
と思ったけど、
すぐに怪しい、と思い直した。
橋の下を流れているのは、何の変哲もない川である。
河原の桜も散った後だし、見るべきものなんて何もない。
白いワンピースの華奢な後姿が震えている。
髪の毛は背中まであり、私の所から顔は見えない。
投身自殺?
すぐに閃いた。
ならば、止めなければ。
「どうしたんですか?」
行き交う車の間を縫って道路を渡り切ると、私はそう声をかけた。
びくっと女性の肩が震えるのがわかった。
この喧騒の中、なんとか声は届いたらしい。
「早まらないでください」
更に近づいてそう言い募ると、
「ダメなんです」
女性がこちらに背中を向けたまま、悲しそうにかぶりを振った。
「私、穴を開けてしまって…」
穴?
何のことだろう?
私はきょとんとした。
この人、テレビとかの関係者なのだろうか。
例えばお天気キャスターか何かで、寝坊で遅刻して、番組に穴を開けちゃったとか?
そうだ。きっとそれに違いない。
「そのくらい、謝れば大丈夫ですよ。失敗は、誰にだってあるものですから」
そう励ました瞬間だった。
女性がゆっくりと振り向いた。
「そうですか…。こんな穴でも、なんとかなりますか?」
う。
その顔をひと目見るなり、私は、棒を吞んだように硬直した。
女性の顔面の真ん中には文字通り、大きな穴がぽっかりと口を開いていたのである。
橋の途中で、欄干から身を乗り出している若い女性を見かけた。
景色、眺めてるのかな?
と思ったけど、
すぐに怪しい、と思い直した。
橋の下を流れているのは、何の変哲もない川である。
河原の桜も散った後だし、見るべきものなんて何もない。
白いワンピースの華奢な後姿が震えている。
髪の毛は背中まであり、私の所から顔は見えない。
投身自殺?
すぐに閃いた。
ならば、止めなければ。
「どうしたんですか?」
行き交う車の間を縫って道路を渡り切ると、私はそう声をかけた。
びくっと女性の肩が震えるのがわかった。
この喧騒の中、なんとか声は届いたらしい。
「早まらないでください」
更に近づいてそう言い募ると、
「ダメなんです」
女性がこちらに背中を向けたまま、悲しそうにかぶりを振った。
「私、穴を開けてしまって…」
穴?
何のことだろう?
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う。
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