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第249話 空気人形(前編)
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ついに来た。
俺は震える手で届いたばかりの宅配便の包装紙を引きむしった。
現れたのは、フタにメイド服の少女の絵が大きくプリントされた箱である。
少女は顔は幼いが身体は大人で、スカートが短すぎてフリルのついた白いパンティが見えている。
商品名は『あなたのラブドール・ナナ』。
迷いに迷った末、清水の舞台から飛び降りる思いで注文したアダルトグッズである。
ただのオナニーには飽きていた。
何かないかとSNSを漁っていたら、出てきたのがナナの広告だったのだ。
通常、人間そっくりのラブドールは、新車一台分ほどの高値らしい。
ところがナナは安かった。
5000円なのだ。
これなら万年ニートの俺でも買える。
ドキドキしながら箱を開けた。
がー。
出てきたのは、しわくちゃのビニールの塊だった。
は…?
一瞬、目を疑った。
これが本当に、こんな美少女になるのだろうか。
箱のフタの絵とそれを見比べながら、俺は首をかしげた。
嫌な予感がした。
でも、今更引き返すことなどできないのだ。
トリセツを読むと、自転車の空気入れで空気を入れろと書いてあった。
そんなものないので、自前の肺活量を試すことにした。
ビニールの塊から突き出た注入口を口で咥え、慎重に息を吹き込んでいく。
トリセツによると、完成したナナは人間の幼女ほどの大きさになるはずだ。
その分膨らませるには大量の空気が必要で、それを人力で賄うのはおそろしいまでの重労働だったのだがー。
性欲は不可能を可能にする。
俺は煽情的なナナのイラストを穴が開くほど凝視しながら、1時間以上かけ、汗だくになって作業をやり切った。
しかし。
しかしである。
できた空気人形をひと目見て、俺は愕然となった。
なんだ、これは?
嫌な予感が、見事、的中していた。
これじゃ、まるで…。
バルーンアートでよく見かける細長い風船。
頭も、胴体も、四肢も、ぜんぶあれである。
ただ、よく見ると、申し訳程度に胸の部分にふたつ突起が作ってあり、股間に当たる部分は若干へこんでいる。
こいつと、しろというのか…?
中身を確認する前に、待ちきれず、俺は全裸になっていた。
が、ついさっきまでギンギンだったはずの股間の息子は、今や完全にしぼんで叢の中に隠れてしまっている。
何か変わるかと思い、完成したナナを椅子に座らせてみた。
だが、無駄だった。
見ようによっては、かろうじて人間の姿に見えないこともない。
けれどそれは箱の蓋に描いてある煽情的な美少女には程遠い、たんなる”でく人形”だ。
せいぜいが車の衝突実験で使われる、あのかわいそうな人形程度の出来である。
後悔が喉元まで込み上げてきた。
やはりケチったのがまずかったのだ。
たった5000円で、まともなラブドールが手に入るはずなかったのである。
くそ。
詐欺だ。
訴えてやる…。
こ、こんなもの!
切り刻んでやろうと、はさみを振り上げた時だった。
締め切った部屋の中に、ふいに鈴が鳴るような声が響いた。
「こんにちは。買ってくれて、ありがとう。あたし、ナナです。よろしくね」
俺は震える手で届いたばかりの宅配便の包装紙を引きむしった。
現れたのは、フタにメイド服の少女の絵が大きくプリントされた箱である。
少女は顔は幼いが身体は大人で、スカートが短すぎてフリルのついた白いパンティが見えている。
商品名は『あなたのラブドール・ナナ』。
迷いに迷った末、清水の舞台から飛び降りる思いで注文したアダルトグッズである。
ただのオナニーには飽きていた。
何かないかとSNSを漁っていたら、出てきたのがナナの広告だったのだ。
通常、人間そっくりのラブドールは、新車一台分ほどの高値らしい。
ところがナナは安かった。
5000円なのだ。
これなら万年ニートの俺でも買える。
ドキドキしながら箱を開けた。
がー。
出てきたのは、しわくちゃのビニールの塊だった。
は…?
一瞬、目を疑った。
これが本当に、こんな美少女になるのだろうか。
箱のフタの絵とそれを見比べながら、俺は首をかしげた。
嫌な予感がした。
でも、今更引き返すことなどできないのだ。
トリセツを読むと、自転車の空気入れで空気を入れろと書いてあった。
そんなものないので、自前の肺活量を試すことにした。
ビニールの塊から突き出た注入口を口で咥え、慎重に息を吹き込んでいく。
トリセツによると、完成したナナは人間の幼女ほどの大きさになるはずだ。
その分膨らませるには大量の空気が必要で、それを人力で賄うのはおそろしいまでの重労働だったのだがー。
性欲は不可能を可能にする。
俺は煽情的なナナのイラストを穴が開くほど凝視しながら、1時間以上かけ、汗だくになって作業をやり切った。
しかし。
しかしである。
できた空気人形をひと目見て、俺は愕然となった。
なんだ、これは?
嫌な予感が、見事、的中していた。
これじゃ、まるで…。
バルーンアートでよく見かける細長い風船。
頭も、胴体も、四肢も、ぜんぶあれである。
ただ、よく見ると、申し訳程度に胸の部分にふたつ突起が作ってあり、股間に当たる部分は若干へこんでいる。
こいつと、しろというのか…?
中身を確認する前に、待ちきれず、俺は全裸になっていた。
が、ついさっきまでギンギンだったはずの股間の息子は、今や完全にしぼんで叢の中に隠れてしまっている。
何か変わるかと思い、完成したナナを椅子に座らせてみた。
だが、無駄だった。
見ようによっては、かろうじて人間の姿に見えないこともない。
けれどそれは箱の蓋に描いてある煽情的な美少女には程遠い、たんなる”でく人形”だ。
せいぜいが車の衝突実験で使われる、あのかわいそうな人形程度の出来である。
後悔が喉元まで込み上げてきた。
やはりケチったのがまずかったのだ。
たった5000円で、まともなラブドールが手に入るはずなかったのである。
くそ。
詐欺だ。
訴えてやる…。
こ、こんなもの!
切り刻んでやろうと、はさみを振り上げた時だった。
締め切った部屋の中に、ふいに鈴が鳴るような声が響いた。
「こんにちは。買ってくれて、ありがとう。あたし、ナナです。よろしくね」
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