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第237話 ひとつ屋根の下のストーカー(後編)

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 その夜、私は入浴後、紺色のスクール水着に着替え、そのまま敷布団の上に横になった。
 下着姿でもよかったが、この後起こることを考慮に入れると、少しでもスポーティなほうがいいと思ったのだ。
 相手に盗撮の機会を与えるため、あえて電気は消さなかった。
 以前寝顔を撮られた時も、試験勉強で疲れ、電気を消し忘れて寝入ってしまった時のことだったのである。
 後は右手には用意した”あれ”を握りしめ、寝たふりをして敵の出方を待つだけだ。
 薄目を開けて、まぶたの隙間からじっと天井を観察する。
 この前読んだ江戸川乱歩の小説みたいに、やつは屋根裏に潜んでいて節穴から下を覗いているのだろうか。
 確かにこの家はかなり古い造りなので、天井の板も木目の浮き出た骨董品だ。
 あの楕円形の目玉みたいな模様のうちのひとつが穴だったとしても、容易には判別できそうにない。
 そんなことを考えているうちに、昼間の疲れが出てついうとうとしてしまったらしい。
 どれくらいのあいだ、そうしてうつらうつらしていたのかー。
 何かの気配を感じて私はハッと目を開けた。
 天井で、例の木目が動いていた。
 何かいる!
 凝視していると、天井に貼りついたヒトの形をした何者かの姿が、ぼんやり浮かび上がって見えてきた。
 そういう仕掛けだったのか!
 どうやらそいつは周囲の模様そっくりに擬態して、天井に融け込んでいるらしい。
 チャンスだった。
 私はガバッっと身を起こすと、真上の不審者めがけて右手に握った釣り竿を突き出した。
 この釣り竿は養父のもので、玄関先に立ててあったのをあらかじめ拝借しておいたのである。
 釣り竿の先端が何か柔らかいものに突き刺さる手応えとともに、ぎゃっ!という悲鳴が聞こえた。
 ずりずりずりっ!
 天井で木目の模様が蠢き、ドアを開けて何者かが廊下へ這い出ていったのがわかった。
 すぐに隣の部屋のドアが開く音がして、後はしーんと静かになった。
 気がつくと、スク水の胸のあたりに血痕が付着していた。
 やった。
 釣り竿を投げ出し、手の甲で額の汗を拭った。
 私は、勝ったのだ。

 翌朝。
 朝食の時間に階下へ降りていくと、ダイニングキッチンのテーブルに見慣れない人物が座っていた。
 養父母に挟まれ、居心地悪そうに肩をすぼめたそいつは、頭からフードを被った見るからに怪しいやつだった。
 しかも、右目に眼帯をしている。
「紹介するわ。息子の祐一よ」
 にこやかな笑顔で養母が言った。
「昨日の夜遅く、東京から帰ってきたの」
 私は穴が開くほどじっとそいつの顔を見た。
 そして、きまり悪そうに、そいつが右手で顔を隠した時、はっきりと確認したのである。
 そいつの指が、あのトカゲの仲間のヤモリの指みたいに第二関節あたりが極端に肥大して、見事な吸盤状になっていたことをー。
 
 
 
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