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第222話 出張帰り
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家に帰るのは1週間ぶりだった。
札幌まで出張に行っていたのである。
自宅は昨年建てた2世帯住宅。
30代前半の俺にはかなりの背伸びだったけど、妻と4歳の娘、そして俺の両親の5人で暮らすことにしたのだ。
家は2階建ての新築で、ピカピカの壁や屋根が青空によく映えていた。
無理して買った甲斐があった。
門の前に立って家を見上げるたび、そう思う。
「ただいま~」
胸を張り、ドアのかぎを開け、玄関に入った。
中はしんとして、誰の返事もない。
きょうは日曜日だから娘の保育園もないはずだ。
4人で買い物にでもでかけているのだろうか。
でも、この時間に帰宅することは、妻にも母にも事前に伝えてある。
俺の帰りを待たずして一家総出で外出するなんてことは、ありそうにない。
現に、靴箱を確認すると、俺以外の全員の履物がそろっていた。
間違いない。
みんな、家の中にいるのだ。
なのにー。
「智子、天音、帰ったよ~」
声を張り上げ、廊下を歩いた。
ダイニングキッチンはもぬけの殻。
1階の両親の部屋にも誰もいない。
2階は俺の書斎、妻と娘の部屋、そして夫婦の寝室だ。
全部見回ってみたけど、書斎にも母子の部屋にも人気はなかった。
サプライズの可能性も考えて念のため、クローゼットや押し入れを覗いてみたが、収穫はなし。
残るは寝室だけである。
「冗談もほどほどにしろよ」
いい加減腹が立ってきた俺は、声を荒げて寝室のドアを開け放った。
「こっちは出張帰りで疲れてるんだ。少しは俺の身にもなって…」
そこまで言って、異変に気づいた。
天井から、何かがぶら下がっている。
両手をだらりと下げ、長い髪をまっすぐ垂らした、上半身裸の妻。
腰から上が天井から生え、逆さまになってぶら下がっているのだ。
そしてその隣に、同じく上半身だけの娘。
裸に剥かれた身体が見るからに痛々しい。
少し離れたところに、年老いた裸体を晒した母と父も。
全員、死んでいた。
顔は苦痛に歪み、かっと見開いた眼窩の中の眼は、死んだ魚のそれのように白く濁ってしまっている。
「なんだ、これ…。み、みんな、どうなったんだ?」
茫然とつぶやいた、その時である。
俺は背後に誰かが立つ気配を感じて、心底からぞっとなった。
ー待っていたよー
瞬間、そう聴こえた気がしたのだ。
札幌まで出張に行っていたのである。
自宅は昨年建てた2世帯住宅。
30代前半の俺にはかなりの背伸びだったけど、妻と4歳の娘、そして俺の両親の5人で暮らすことにしたのだ。
家は2階建ての新築で、ピカピカの壁や屋根が青空によく映えていた。
無理して買った甲斐があった。
門の前に立って家を見上げるたび、そう思う。
「ただいま~」
胸を張り、ドアのかぎを開け、玄関に入った。
中はしんとして、誰の返事もない。
きょうは日曜日だから娘の保育園もないはずだ。
4人で買い物にでもでかけているのだろうか。
でも、この時間に帰宅することは、妻にも母にも事前に伝えてある。
俺の帰りを待たずして一家総出で外出するなんてことは、ありそうにない。
現に、靴箱を確認すると、俺以外の全員の履物がそろっていた。
間違いない。
みんな、家の中にいるのだ。
なのにー。
「智子、天音、帰ったよ~」
声を張り上げ、廊下を歩いた。
ダイニングキッチンはもぬけの殻。
1階の両親の部屋にも誰もいない。
2階は俺の書斎、妻と娘の部屋、そして夫婦の寝室だ。
全部見回ってみたけど、書斎にも母子の部屋にも人気はなかった。
サプライズの可能性も考えて念のため、クローゼットや押し入れを覗いてみたが、収穫はなし。
残るは寝室だけである。
「冗談もほどほどにしろよ」
いい加減腹が立ってきた俺は、声を荒げて寝室のドアを開け放った。
「こっちは出張帰りで疲れてるんだ。少しは俺の身にもなって…」
そこまで言って、異変に気づいた。
天井から、何かがぶら下がっている。
両手をだらりと下げ、長い髪をまっすぐ垂らした、上半身裸の妻。
腰から上が天井から生え、逆さまになってぶら下がっているのだ。
そしてその隣に、同じく上半身だけの娘。
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全員、死んでいた。
顔は苦痛に歪み、かっと見開いた眼窩の中の眼は、死んだ魚のそれのように白く濁ってしまっている。
「なんだ、これ…。み、みんな、どうなったんだ?」
茫然とつぶやいた、その時である。
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