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第217話 防人(中編)
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連れ込まれたのは異様な空間だった。
1Kの狭い部屋である。
その床をゴミ袋が埋め尽くし、壁には奇妙な絵や写真や習字紙がびっしり貼られている。
そしてなぜか部屋の真ん中には、車輪を外した自転車が一台。
自転車からは何本もの電気コードが出ていてサッシ戸の隙間からベランダへと続いていた。
叔父はランニングシャツにダボダボにズボンという妙な格好で、なぜか汗びっしょりだった。
「な、なんですか? ここ?」
思わずそう尋ねると、
「こっちへ来い。見せたいものがある」
そう言って手招きした先にはゴミ屋敷に不似合いなデスクトップ型のパソコンとディスプレイがあった。
「俺は防人だ」
PCの前に胡坐をかくと叔父は画面を顎で示した。
「今、日本はこいつらに狙われている。誰かが守らねばならんのだ」
PCの画面は深海のような色で、何か白っぽいものが揺らめいている。
オーロラのようなカーテンのようなそれには、よく見ると細い触手状のものがいっぱい生えていた。
「これは?」
「見てわからんか。宇宙水母だ」
叔父の声に怒りがこもった。
「油断するとすぐ降りてくる。さっきもそうだ。気づくと上空50mまで接近していやがった」
「これが近づくと、どうなるんですか?」
「怪しい電波で人間を操ろうとする。このヘルメットは、その電波を遮断するためだ」
そうか、電波系か。
この人、やっぱり狂ってるんだ。
腑に落ちると同時に、帰りたくなった。
一心不乱に画面を見つめる叔父は、鬼気迫る形相をしている。
いくら母さんの弟とはいえ、こんなヤバい人とはこれ以上かかわりたくはない。
「じゃ、僕は、これで…」
忍び足で後ずさりした時だった。
ウィーンウィーンウィーン!
突然、PCが警告音を発し始めた。
「まずい! 外を見てくれ!」
叔父が叫んだ。
「え?」
「いいから、早く!」
仕方なく、ベランダに面したサッシ戸から外を覗いてみた。
貼りめぐらされた習字紙の隙間から空を見上げるとー。
「ん?」
居た。
PCの画面に映っていたのと同じ、でっかいクラゲがマンション上空で丸い笠を閉じたり開いたりしている。
しかも、耳の奥がキーンと鳴り始め、頭痛が…。
「うわあああ!」
「待ってろ!」
耳を押さえてひっくり返った僕にそう声をかけ、叔父が部屋の真ん中の自転車にまたがった。
そして、すごい勢いでペダルをこぎ出すと、不思議なことに耳鳴りが少しずつ収まっていった。
おそるおそるもう一度外を見た僕は、瞬間、あっと声を上げた。
宇宙クラゲが後退し始めている。
何か目に見えないバリアみたいなものにぶつかって、それ以上下降して来られないらしい。
その時になって、ようやく僕は気づいた。
ベランダに設置してある、アルミ箔を貼ったビニール傘。
そこから何か電磁波みたいなものが放射されているのである。
証拠に、その手製の即席アンテナは徐々に虹色の光を放ち、細かく震え始めているのだ。
そしてその動力はー。
人力。
そう、自転車を漕ぐことで、叔父が作り出しているというわけだ。
ー後編に続くー
1Kの狭い部屋である。
その床をゴミ袋が埋め尽くし、壁には奇妙な絵や写真や習字紙がびっしり貼られている。
そしてなぜか部屋の真ん中には、車輪を外した自転車が一台。
自転車からは何本もの電気コードが出ていてサッシ戸の隙間からベランダへと続いていた。
叔父はランニングシャツにダボダボにズボンという妙な格好で、なぜか汗びっしょりだった。
「な、なんですか? ここ?」
思わずそう尋ねると、
「こっちへ来い。見せたいものがある」
そう言って手招きした先にはゴミ屋敷に不似合いなデスクトップ型のパソコンとディスプレイがあった。
「俺は防人だ」
PCの前に胡坐をかくと叔父は画面を顎で示した。
「今、日本はこいつらに狙われている。誰かが守らねばならんのだ」
PCの画面は深海のような色で、何か白っぽいものが揺らめいている。
オーロラのようなカーテンのようなそれには、よく見ると細い触手状のものがいっぱい生えていた。
「これは?」
「見てわからんか。宇宙水母だ」
叔父の声に怒りがこもった。
「油断するとすぐ降りてくる。さっきもそうだ。気づくと上空50mまで接近していやがった」
「これが近づくと、どうなるんですか?」
「怪しい電波で人間を操ろうとする。このヘルメットは、その電波を遮断するためだ」
そうか、電波系か。
この人、やっぱり狂ってるんだ。
腑に落ちると同時に、帰りたくなった。
一心不乱に画面を見つめる叔父は、鬼気迫る形相をしている。
いくら母さんの弟とはいえ、こんなヤバい人とはこれ以上かかわりたくはない。
「じゃ、僕は、これで…」
忍び足で後ずさりした時だった。
ウィーンウィーンウィーン!
突然、PCが警告音を発し始めた。
「まずい! 外を見てくれ!」
叔父が叫んだ。
「え?」
「いいから、早く!」
仕方なく、ベランダに面したサッシ戸から外を覗いてみた。
貼りめぐらされた習字紙の隙間から空を見上げるとー。
「ん?」
居た。
PCの画面に映っていたのと同じ、でっかいクラゲがマンション上空で丸い笠を閉じたり開いたりしている。
しかも、耳の奥がキーンと鳴り始め、頭痛が…。
「うわあああ!」
「待ってろ!」
耳を押さえてひっくり返った僕にそう声をかけ、叔父が部屋の真ん中の自転車にまたがった。
そして、すごい勢いでペダルをこぎ出すと、不思議なことに耳鳴りが少しずつ収まっていった。
おそるおそるもう一度外を見た僕は、瞬間、あっと声を上げた。
宇宙クラゲが後退し始めている。
何か目に見えないバリアみたいなものにぶつかって、それ以上下降して来られないらしい。
その時になって、ようやく僕は気づいた。
ベランダに設置してある、アルミ箔を貼ったビニール傘。
そこから何か電磁波みたいなものが放射されているのである。
証拠に、その手製の即席アンテナは徐々に虹色の光を放ち、細かく震え始めているのだ。
そしてその動力はー。
人力。
そう、自転車を漕ぐことで、叔父が作り出しているというわけだ。
ー後編に続くー
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