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第210話 禁断の恋

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 先生にコクられた。
 ーあなたしか見ていなかったー
 体育祭の打ち上げの時、そうささやかれたのだ。
 先生は27歳で独身だ。
 10歳年上だが、あどけない顔立ちの美人で、スタイルもいい。
 授業の時など、ミニスカートで椅子に座って足を組み替えるので、僕ら男子はドキドキして勉強どころではなかったものだ。
 学園のマドンナ的な存在であるその先生に、告白されたのである。
 ーつきあってほしいー
 と。
 最初は授業後の教室や、先生の車の中だった。
 おずおずとした触れ合いはすぐに熱を帯び、キスから始まって、行為はどんどんエスカレートしていった。
 人目を忍んでラブホに通うようになると、僕は先生の身体とテクニックに溺れ、もう何も見えなくなった。
 当然、成績はダダ下がり。
 受験の学年を目の前にして、僕はついに校内順位最下層にまで落ち込んでしまった。
 まるでオナニーを覚えたばかりのチンパンジーのように、僕は先生と”すること”しか考えられなくなってしまったのである…。
 が、幸福は長くは続かないものだ。
 ある夜、家を抜け出していつもの待ち合わせ場所に急ぐと、路地から声がした。
「待て。行くな」
 街灯の下に現れた人物の顔を見るなり、僕は思わず小さくうめいていた。
 父だった。
 どうしてこんな所に?
 それより、行くな、とはどういうことだ?
 まさか、先生との逢瀬がバレていたとでも…。
「おまえがあいつとつきあってることはわかっている」
 道路を挟んだ向かい側のカフェのほうを睨み据えながら、父が言った。
 その視線の先に見えるのは、窓側の席に座ってストローに口をつけた若い女性。
 間違いなく、僕の先生だ。
「だが、悪いことは言わない。あいつだけはやめておけ」
「な、なんでだよ?」
 僕はかみついた。
「歳が離れてるから? 相手が先生だから? でも、そんなこと関係ないだろ! あと半年もすれば、俺だって」
「歳は関係ない」
 吐き捨てるように父が言った。
「とにかく、あいつだけは駄目なんだ」
 なぜか顔がひきつっている。
「わけわかんねーよ! 俺たち、つきあってんだ! 俺が高校卒業したら、結婚する約束する…」
 僕がそこまで言った時だった。
 父の視線が僕の背後に向けられ、突然、そこで凍りついたように動かなくなった。
 ん?
 振り向くと、目と鼻の先に、体の線を強調するミニワンピを着た先生が立っていた。
「どうしたの? こんなところで親子喧嘩?」
 赤い唇の両端が意味ありげに吊り上がる。
「き、きさま…よくも、俺の息子に…。復讐のつもりか?」
 父の顔はもはや蒼白だ。
 その父に向かって妖しく微笑みかける先生。
「あら、なんのことかしら、ケンジさん」
 ケンジ、さん…?
 僕は愕然とした。
 ケンジというのは父の名だ。
 ま、まさか…。
「ひとつ、いいこと教えてあげる」
 父を見つめる先生の笑みが大きくなる。
「お父様のあなたより、息子の彼のほうが、セックス、ずっと上手いのよ。あそこも、ずっと大きいしね」
「やめろ! この売女が!」
 怒声を上げて、父が元不倫相手に飛び掛かった。
 路上で首を絞め合う二頭のケダモノを、僕はただ茫然と見守るしかなかった…。
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