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第206話 婚活異変

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 私は舞い上がっていた。
 結婚相談所を介してのお見合い30回目にして、ついに上玉をGETしたのだ。
 収入も私の倍はあるし、家柄も申し分ない。
 それに何よりー。
 私は対面の席でゆっくりナイフとフォークを動かす美形をうっとりと眺めた。
 この顔。
 火の玉ストレートで私の好みドンピシャなのである。
 吉野泰三、35歳。
 それが彼の名。
 ちなみに私は藤田佳代32歳。
 年齢的にいっても、似合いのカップルである。 
 私たちは婚約指輪を見に行った帰りだった。
 ランチに、彼のひいきにしているホテルのビュッフェで食事をとることにしたのだ。
「僕の顔に何かついてる?」
 手を止めて、吉野君が私を見た。
 その顔にはいつも柔和な笑顔が浮かんでいる。
「ううん、何も」
 私も微笑み返し、かぶりを振った。
 彼と食事をとるのはまだ数えるほどだが、何か少しだけ、違和感を感じることがあった。
 手の動き?
 位置?
 今もそうだが、それが何かは、はっきりとはわからない。
「ただ、いつ見てもイケメンだなあって思って」
 これは本心から出た言葉。
 実際、韓流の俳優並みと言っていいほど、彼は美形なのだ。
「やだなあ、またそんなお世辞を」
 吉野君が照れくさそうにはにかんで頭を掻いた時だった。
 突然、グラグラッと足元が揺れ、あちこちで警報音が鳴り出した。 
 ー地震です! 地震です!
 例の地震警報が、このレストランで食事をとっている全部の客のスマホで鳴っている。
 揺れは震度4くらいだろうか。
 この地方にしては割と大きいほうだった。
 続いたのは数秒間。
 揺れが収まるにつれて、店内のざわめきも収束し始めた。
「けっこう大きかったね」
 安堵の吐息をついて、吉野君のほうに再度目を向けた、その瞬間である。
「え?」
 予想外の光景に、私は唖然とした。
 吉野君は立ち上がっていた。
 それはいいのだが、上半身が、なくなっている。
 いや、正確に言うと、背中側に折れ曲がって倒れているのだ。
 その下に、剥き出しのおなかがあった。
 なぜか吉野君、カッターシャツの前をはだけて、腹を出しているのである。
 奇妙なのは、その丸い腹部に、顔がついていることだった。
 忘年会の一発芸で、おなかに顔を描いて踊るやつがあるが、まさにあれをリアルにしたような感じである。
「み、見られちゃったね…」
 おなかに開いたぎょろりとした二つの眼が私を見つめ、悲しそうにつぶやいた。
 その時になって、私は違和感の正体にようやく気づいた。
 吉野君の手の動きー。
 口元ではなく、時々テーブルの下に、フォークやナイフを…。
 つまり、それは…。
「わかっちゃったかな? 君がいつもほめてくれてたのは作り物で、こっちが本物の僕の顔なんだよ」
 二頭身の怪物のその言葉に、私は問答無用で卒倒した。
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