超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

第190話 痔

　最近、排便の際、肛門のあたりが痛くてたまらない。
　おそるおそる指で触ってみると、穴から何かツルツルしたものがはみ出していた。
　痔かと思って近所の肛門外科へ行き、診察室に通されたら、担当医師は若くてきれいな女性だった。
「そうですか、それは大変でしたね」
　俺の話を聞くと、銀縁メガネの縁を光らせて、彼女は言った。
「ではさっそく診てみましょう。着ているものを全部脱いで、そのベッドの上で、四つん這いになってください」
「あ、は、はい」
　診察は屈辱の極みだった。
　ベッドの上に全裸で犬の格好をしたところを、若くて可愛い看護師に肛門をこじ開けられたのだ。
「これは…」
　こじ開けられた俺の尻の谷間を覗き込むなり、女医が息を呑んだ。
「尻子玉ですね」
　看護師の声。
　気のせいか、ふたりとも、声が歓喜に震えている。
「みつけた。何十年ぶりかしら」
「尻子玉を持ってる人間は、絶滅したかと思ってたましたわ」
「この職業に就いて、これまでずっと、汚らわしい人間どものケツに耐え忍んできた甲斐があったというもの」
「私もです」
「でも、尻子玉はひとつしかないわ」
「先に見つけたのは、あたしです」
「何を言うの。ここでは私のほうが身分が上よ」
「我々の一族に身分などありませぬ。力の強いものが勝つ、弱肉強食の世界ですから」
「ならば仕方ないわね」
「望むところ」
　なんだ？
　こいつら、何の話をしてる？
　四つん這いのまま、股の間から背後をのぞいてみて、俺は絶句した。
　グルルルル…。
　そこにいたのは、ケモノじみた唸り声を発してにらみ合う、二匹の河童だったのだ。