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第184話 離島怪異譚⑨
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「圭さん、朝風呂ですか? ずいぶん肌の色が艶やかですけど」
食堂に顔を出すと、先に席についていた野崎が開口一番、そう言った。
一瞬、どきりとした。
朝風呂なんか入っていない。
でも、全身が火照りに火照っているのは事実である。
この火照り方は、情交の後のオーガズムの名残に似ている。
鈍感な野崎が気づくぐらいだから、私の全身からフェロモンみたいなものが発散されているのかもしれない。
「肌の色がどうのって、それもセクハラだよ」
野崎は隣の部屋だ。
まさか昨夜のアレを知っているとか…。
焦りを隠すためにわざとつっけんどんな口調で返して、私は野崎の前に腰を下ろした。
テーブルの上には、焼き魚、だし巻き卵、野菜のおひたし、わかめの味噌汁、それに雑穀米と、私の好物が並んでいる。
それを見ただけで、おなかがぐうと鳴った。
「令和の世になってから、やりにくくなりましたよねえ。何かといえばセクハラだ、パワハラだって…」
じじむさいことをぼやきながら、焼き魚をつつく野崎。
私は少しほっとした。
大丈夫だ。この様子なら、気づかれていない。
「それで、きょうの予定は、どうします?」
「とりえず、殺害現場に行ってみようと思ってるけど」
「東海岸の洞窟でしたっけ。女子大生の若槻南と主婦の浅井瑞希の死体が発見されたのは」
「そう。地図で見た限りでは、ここから歩いても30分で行けると思う」
「30分も歩くんですか」
典型的なインドア体質の野崎がげんなりした顔になる。
この男、趣味はゲームなのだ。
それ以外のことにはまったくといっていいほど、体力を使わない。
「途中の道に何か手がかりが見つかるかもしれないでしょ。目撃者がいるかもしれないし」
「そんなの警察がとっくに調べてますって。もう2か月近く前のことですからね」
「ごちゃごちゃ言わない。あんた、何のためにこの辺鄙な島に来たって思ってるの」
依頼者浅井俊介の、怒りと悲しみに歪んだ顔が脳裏に浮かんだ。
「へいへい」
首をすくめるようにした野崎がそこで、ふと思いついたようにつぶやいた。
「そういえば、昨日の夕飯も今朝の朝食も、おかずにアレが出ていませんね」
「あれって?」
「蛸ですよ。蛸。だってこの島、タコ漁で有名なんでしょ?」
それを聞いた途端、うなじの産毛がぞわっと一斉に逆立つのがわかった。
昨日見た蛸少女。
そして夕べの触手レイプ。
もし出てきたとしても、蛸料理なんてとても食べられない。
「くだらないこと言ってないで、食べ終わったら行くよ」
箸をおいて席を立とうとした時、またしても野崎が嫌なことを口にした。
「あれ、圭さん、その首、どうかしたんですか? キスマークみたいなぽつぽつが、いっぱいついてますけど?」
食堂に顔を出すと、先に席についていた野崎が開口一番、そう言った。
一瞬、どきりとした。
朝風呂なんか入っていない。
でも、全身が火照りに火照っているのは事実である。
この火照り方は、情交の後のオーガズムの名残に似ている。
鈍感な野崎が気づくぐらいだから、私の全身からフェロモンみたいなものが発散されているのかもしれない。
「肌の色がどうのって、それもセクハラだよ」
野崎は隣の部屋だ。
まさか昨夜のアレを知っているとか…。
焦りを隠すためにわざとつっけんどんな口調で返して、私は野崎の前に腰を下ろした。
テーブルの上には、焼き魚、だし巻き卵、野菜のおひたし、わかめの味噌汁、それに雑穀米と、私の好物が並んでいる。
それを見ただけで、おなかがぐうと鳴った。
「令和の世になってから、やりにくくなりましたよねえ。何かといえばセクハラだ、パワハラだって…」
じじむさいことをぼやきながら、焼き魚をつつく野崎。
私は少しほっとした。
大丈夫だ。この様子なら、気づかれていない。
「それで、きょうの予定は、どうします?」
「とりえず、殺害現場に行ってみようと思ってるけど」
「東海岸の洞窟でしたっけ。女子大生の若槻南と主婦の浅井瑞希の死体が発見されたのは」
「そう。地図で見た限りでは、ここから歩いても30分で行けると思う」
「30分も歩くんですか」
典型的なインドア体質の野崎がげんなりした顔になる。
この男、趣味はゲームなのだ。
それ以外のことにはまったくといっていいほど、体力を使わない。
「途中の道に何か手がかりが見つかるかもしれないでしょ。目撃者がいるかもしれないし」
「そんなの警察がとっくに調べてますって。もう2か月近く前のことですからね」
「ごちゃごちゃ言わない。あんた、何のためにこの辺鄙な島に来たって思ってるの」
依頼者浅井俊介の、怒りと悲しみに歪んだ顔が脳裏に浮かんだ。
「へいへい」
首をすくめるようにした野崎がそこで、ふと思いついたようにつぶやいた。
「そういえば、昨日の夕飯も今朝の朝食も、おかずにアレが出ていませんね」
「あれって?」
「蛸ですよ。蛸。だってこの島、タコ漁で有名なんでしょ?」
それを聞いた途端、うなじの産毛がぞわっと一斉に逆立つのがわかった。
昨日見た蛸少女。
そして夕べの触手レイプ。
もし出てきたとしても、蛸料理なんてとても食べられない。
「くだらないこと言ってないで、食べ終わったら行くよ」
箸をおいて席を立とうとした時、またしても野崎が嫌なことを口にした。
「あれ、圭さん、その首、どうかしたんですか? キスマークみたいなぽつぽつが、いっぱいついてますけど?」
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