上 下
190 / 423

第189話 うしろの正面

しおりを挟む
 バイト代が入ったので、親友のヤスオを誘って焼肉屋へ行った。
 コスパがいいことで有名な、近所のこじんまりした店である。
 店はそこそこ繁盛していて、店内には香ばしい焼き肉のたれの匂いが漂っていた。
「よーし、食うぞ!」
 ビールで祝杯をあげ、早速焼きにかかった。
 がー。
 少し目を離したとたん、網の上にのせていた肉がなくなっていた。
「おい、俺の分まで食うなよ」
 ヤスオに文句を言うと、
「おまえこそ、俺が焼いてた分まで、食べやがって」
 目を三角にして、そう言い返してきた。
「馬鹿野郎、俺まだひと切れも食ってないぞ」
「俺だって」
「どういうことだよ」
「うーん」
 店内にはテレビがついていて、ちょうどサッカーの試合の中継をやっている。
 そっちに気をとられているうちに、誰かが焼けた肉をかすめ取ったとしか思えない。
「ひとつ実験してみよう」
 俺は網の上に生肉を並べ直した。
「こうしておいて、わざと肉から目をそらすんだ」
「了解」
 ふたりしてテレビのほうに目を向ける。
 だが、今度は視界の隅に焼き肉を収めておくのを忘れない。
 結果はすぐに出た。
 何か黒いものが視界の隅を横切ったかと思うと、
「あっ!」
 ヤスオが目をまん丸にして、俺の後ろを指差したのだ。
「ん?」
 振り向いた俺は、奇怪な光景を目の当たりにして仰天しないではいられなかった。
 すぐ後ろの席に髪の長い女性が座っているのだが、その髪の毛が触手のように動いて、箸と取り皿を持っている。
 そして、後頭部に開いた大きな口に、俺たちの焼き肉を今しも放り込もうとしているのだ。
「よ、妖怪…」
 ヤスオがうめくように言った。
 そう。
 俺たちの肉をかすめ取っていたのは、妖怪ふた口女だったのだ。

 その1時間後、俺たち3人はラブホテルの一室にいた。
 女が「お詫びの印に」と誘ってきたのである。
 全裸になってシャワーを浴び、俺が女の前、ヤスオが女の後ろに立つ。
 そしてー。
「行くわよ」
「あふっ」
「ひいっ」
 二つの口に同時に咥えられ、俺たちは一気に涅槃の境地へと上り詰めるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜アソコ編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとエッチなショートショートつめあわせ♡

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

我慢できないっ

滴石雫
大衆娯楽
我慢できないショートなお話

処理中です...