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第179話 風船
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娘を連れて近所の公園に行くと、小学生くらいの子供たちが群れていた。
「いいなあ」
娘が言った。
「アユミもあれほしい」
「あれ?」
娘は空を見上げている。
子供たちの頭上に何かが浮かんでいて、風に揺れている。
娘の視線はそれに釘付けになっているのだ。
「風船かな」
近づいてみて、私は違和感に襲われた。
「な、なんだ、あれ」
子供たちが手にしているのは、肉色の太いチューブのようなもので、その先には顔があり、頭髪が生えている。
つまりは、人間の”首から上”なのだ。
しかも、人間のものにしては、首の部分が異様に長い。
「近づいちゃいけない」
私は嫌がる娘の手を引いて、その場を離れようとした。
そして、その時に気づいた。
もうひとつの異常事態。
ベンチの後ろに、何かが並んで横たわっている。
身体だった。
首のない、人間の身体である。
全部で5体。
セーラー服から作業着まで、年齢、性別はさまざまだ。
共通点は、首から上がないこと。
つまり、あの首は…?
「おじさん、知らないの?」
ふいに声をかけられ、私は飛び上がらんばかりに驚いた。
いつのまにか、すぐそこに、銀縁眼鏡の、秀才面をした男子小学生が立っていて、私のほうを見上げている。
「こいつらはろくろ首、あるいは”抜け首”って言ってね、妖怪の一種なんだ」
「妖怪?」
「そう。こいつら、首が抜けてね、首だけで空を飛び回ることができるんだけど、覗きとか空き巣とか、いろいろ悪さをするって聞いたから、僕らがこらしめてるところなのさ」
「こらしめる?」
私は空を浮遊するろくろ首の頭部に目をやった。
確かに5つの頭部は、どれも苦痛に顔をゆがめている。
「こいつらの弱点は、首が抜けてる間に身体のほうを動かされること。そうするとさ、首は二度と身体に戻れなくなるんだよ」
さかしらぶった顔で解説を続ける少年に、私は一歩近づいた。
恐怖心をおしのけて、ふつふつと胸の底から怒りがこみあげてくる。
折れそうに細い喉首に両手をかけ、徐々に力を入れていく。
「ちょ、ちょっと、おじさん、な、何するんだよ!」
ゲボゲボせき込みながら、少年が涙のにじんだ眼で私を見た。
だが、ここでやめるわけにはいかなかった。
わが一族のためにも。
首の付け根がむずむずしてならなかった。
「パパ…」
その時、背後で娘の声がした。
「パパも…なんだかお首が、伸びてるよ…」
「いいなあ」
娘が言った。
「アユミもあれほしい」
「あれ?」
娘は空を見上げている。
子供たちの頭上に何かが浮かんでいて、風に揺れている。
娘の視線はそれに釘付けになっているのだ。
「風船かな」
近づいてみて、私は違和感に襲われた。
「な、なんだ、あれ」
子供たちが手にしているのは、肉色の太いチューブのようなもので、その先には顔があり、頭髪が生えている。
つまりは、人間の”首から上”なのだ。
しかも、人間のものにしては、首の部分が異様に長い。
「近づいちゃいけない」
私は嫌がる娘の手を引いて、その場を離れようとした。
そして、その時に気づいた。
もうひとつの異常事態。
ベンチの後ろに、何かが並んで横たわっている。
身体だった。
首のない、人間の身体である。
全部で5体。
セーラー服から作業着まで、年齢、性別はさまざまだ。
共通点は、首から上がないこと。
つまり、あの首は…?
「おじさん、知らないの?」
ふいに声をかけられ、私は飛び上がらんばかりに驚いた。
いつのまにか、すぐそこに、銀縁眼鏡の、秀才面をした男子小学生が立っていて、私のほうを見上げている。
「こいつらはろくろ首、あるいは”抜け首”って言ってね、妖怪の一種なんだ」
「妖怪?」
「そう。こいつら、首が抜けてね、首だけで空を飛び回ることができるんだけど、覗きとか空き巣とか、いろいろ悪さをするって聞いたから、僕らがこらしめてるところなのさ」
「こらしめる?」
私は空を浮遊するろくろ首の頭部に目をやった。
確かに5つの頭部は、どれも苦痛に顔をゆがめている。
「こいつらの弱点は、首が抜けてる間に身体のほうを動かされること。そうするとさ、首は二度と身体に戻れなくなるんだよ」
さかしらぶった顔で解説を続ける少年に、私は一歩近づいた。
恐怖心をおしのけて、ふつふつと胸の底から怒りがこみあげてくる。
折れそうに細い喉首に両手をかけ、徐々に力を入れていく。
「ちょ、ちょっと、おじさん、な、何するんだよ!」
ゲボゲボせき込みながら、少年が涙のにじんだ眼で私を見た。
だが、ここでやめるわけにはいかなかった。
わが一族のためにも。
首の付け根がむずむずしてならなかった。
「パパ…」
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