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第177話 ギフト
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「和夫、おまえ、また見学かよ。男のくせに、ダッセーッ!」
体操着に着替えたクラスメートたちが笑いながら通り過ぎていく。
けれど僕は首を縮めて肩をすくめるしかない。
僕に運動は無理だから。
特に冬はいけない。
母にも医者にもそう言われてる。
地獄のように惨めな体育の時間が終わり、次は数学だった。
エアコン設備のない教室の中は寒く、僕は相変わらず不調のままだ。
まあ、体調がよくても、数学は苦手なのだけれど。
異変が起きたのは、退屈な授業にクラスの後ろ3分の1が居眠りを始めた頃だった。
ギチギチギチ…。
廊下のほうから変な音が近づいてきたかと思うと、教室の前と後ろの出入り口から何か雪崩れ込んできたのだ。
「わっ!」
「な、なんだあれ!」
「きゃっ! む、虫?」
それは、一匹が大きめの犬ほどもある、巨大な虫の大群だった。
黒光りする甲殻に棘だらけの四本の脚。
頭部には二本の触角と一本の角が生え、その下にガラス玉みたいな目玉が一つ。
一目で地球上の生き物ではないとわかった。
こんな怪物、図鑑でもネットでも見たことない。
虫たちは触角を振り動かしながら生徒たちに近づくと、有無を言わせず襲いかかり、牙で肉を食いちぎり始めた。
沸き起こる悲鳴と絶叫。
噴水のように血しぶきが吹き上がり、音を立てて窓を濡らしていく。
教室の中はさながら屠場だった。
制服と下着を引きちぎられ、ばらばらにされた女子生徒が、怪物の牙でさらに細かいミンチにされていく。
逃げようと駈け出した男子生徒が角で背中を貫かれ、あっという間に上半身と下半身に分断される。
断面からあふれ出した臓物が湯気を立てて机の上に積もっていき、血と排泄物の混じった悪臭をまき散らす。
殺戮が終わるのに、30分とかからなかった。
生徒と教師全員を食べつくすと、骨片と皮膚の切れ端、それから元は衣服だった布切れだけを残し、怪物たちはいずこへと去っていった。
気づくと血の海の中で僕はひとり、机に突っ伏して震えていた。
わけがわからなかった。
どうして?
どうして僕だけ、助かったのだ?
「早めに弱点がわかってよかったですよ」
道路を埋め尽くす宇宙生物たちの死骸を見渡しながら、部下が言った。
「ああ。しかし、まさか、あんなところに手がかりがあったとはな」
私はうなずいた。
正体不明の宇宙生物が、隕石とともに飛来したのがきのうのこと。
昆虫タイプで肉食の、極めてタチの悪い、凶暴なやつらだった。
われわれ地球防衛庁が目を付けたのは、最初に隕石が落下した中学校である。
校内でただ一人、生き残った生徒がいるという情報を得たのがそのきっかけだ。
「ある種の昆虫は電磁波のような波動に反応します。だから、たとえば最近のビニルハウスでは、害虫除けに周波数の高い不可聴域の音を発生させて一定の効果を上げています。あの少年の場合は心臓の拍動でした。心電図をとって、すぐにわかりましたよ。彼は生まれつき心臓に血液を送る冠動脈が細くて、周囲の気温が低いと心拍が不安定になりがちなのです。その独特のリズムが、偶然やつらの苦手な波動と一致していた」
「偶然か」
私は苦笑した。
ひとりの少年の病気が地球を救う。
確かにこんな偶然、そうそうあるものではないな…。
そう、思ったからだった。
体操着に着替えたクラスメートたちが笑いながら通り過ぎていく。
けれど僕は首を縮めて肩をすくめるしかない。
僕に運動は無理だから。
特に冬はいけない。
母にも医者にもそう言われてる。
地獄のように惨めな体育の時間が終わり、次は数学だった。
エアコン設備のない教室の中は寒く、僕は相変わらず不調のままだ。
まあ、体調がよくても、数学は苦手なのだけれど。
異変が起きたのは、退屈な授業にクラスの後ろ3分の1が居眠りを始めた頃だった。
ギチギチギチ…。
廊下のほうから変な音が近づいてきたかと思うと、教室の前と後ろの出入り口から何か雪崩れ込んできたのだ。
「わっ!」
「な、なんだあれ!」
「きゃっ! む、虫?」
それは、一匹が大きめの犬ほどもある、巨大な虫の大群だった。
黒光りする甲殻に棘だらけの四本の脚。
頭部には二本の触角と一本の角が生え、その下にガラス玉みたいな目玉が一つ。
一目で地球上の生き物ではないとわかった。
こんな怪物、図鑑でもネットでも見たことない。
虫たちは触角を振り動かしながら生徒たちに近づくと、有無を言わせず襲いかかり、牙で肉を食いちぎり始めた。
沸き起こる悲鳴と絶叫。
噴水のように血しぶきが吹き上がり、音を立てて窓を濡らしていく。
教室の中はさながら屠場だった。
制服と下着を引きちぎられ、ばらばらにされた女子生徒が、怪物の牙でさらに細かいミンチにされていく。
逃げようと駈け出した男子生徒が角で背中を貫かれ、あっという間に上半身と下半身に分断される。
断面からあふれ出した臓物が湯気を立てて机の上に積もっていき、血と排泄物の混じった悪臭をまき散らす。
殺戮が終わるのに、30分とかからなかった。
生徒と教師全員を食べつくすと、骨片と皮膚の切れ端、それから元は衣服だった布切れだけを残し、怪物たちはいずこへと去っていった。
気づくと血の海の中で僕はひとり、机に突っ伏して震えていた。
わけがわからなかった。
どうして?
どうして僕だけ、助かったのだ?
「早めに弱点がわかってよかったですよ」
道路を埋め尽くす宇宙生物たちの死骸を見渡しながら、部下が言った。
「ああ。しかし、まさか、あんなところに手がかりがあったとはな」
私はうなずいた。
正体不明の宇宙生物が、隕石とともに飛来したのがきのうのこと。
昆虫タイプで肉食の、極めてタチの悪い、凶暴なやつらだった。
われわれ地球防衛庁が目を付けたのは、最初に隕石が落下した中学校である。
校内でただ一人、生き残った生徒がいるという情報を得たのがそのきっかけだ。
「ある種の昆虫は電磁波のような波動に反応します。だから、たとえば最近のビニルハウスでは、害虫除けに周波数の高い不可聴域の音を発生させて一定の効果を上げています。あの少年の場合は心臓の拍動でした。心電図をとって、すぐにわかりましたよ。彼は生まれつき心臓に血液を送る冠動脈が細くて、周囲の気温が低いと心拍が不安定になりがちなのです。その独特のリズムが、偶然やつらの苦手な波動と一致していた」
「偶然か」
私は苦笑した。
ひとりの少年の病気が地球を救う。
確かにこんな偶然、そうそうあるものではないな…。
そう、思ったからだった。
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