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第162話 コンポスト
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ハルトはどこか変だ。
一年中同じ服しか着てこないし、そばに寄るとなんだかくさい。
うわさでは両親がいなくて、ボロボロに家にひとりで住んでいるらしい。
だから、給食だけが唯一の頼りで、学校が休みの日は何も食べないのだという。
その割にハルトは小太りで、肌もつやつやしていた。
冬休みが始まる日、不思議に思って訊いてみると、
「いいこと教えてあげるから、うちに来ない?」
と誘われた。
ふだん空気みたいに無視されているから、たまに話しかけられるとうれしいのだろう。
終業式の後、行ってみることにした。
こわいもの見たさというやつだ。
到着して、驚いた。
ハルトの家はうわさほどボロボロではなく、むしろ新築のようにきれいだった。
ただ不思議なのは、その一画の家々はみんな同じ平屋建てで、土台がなく、箱を地面にじかに置いたみたいな造りになっていることだ。
「ただいまあ」
元気よく言うハルトに続いて中に入った。
土間はなく、そこはもう直接畳敷きの床である。
家の中はしきりのない一つの長方形の空間で、真ん中にぽつんとちゃぶ台が置いてあるだけだ。
「家族はいないの? ごはんとかどうしてるんだ?」
空っぽの空間を見回して訊いてみると、「ママならいるよ。こっち」
にんまり笑ってハルトが手招きした。
そういえば、と思う。
以前、ホームルームで「好きな食べ物」について話し合った時、ハルトが変なことを口にしてみんなに笑われたことがある。
あれとなにか関係があるのだろうか。
奥の壁は一面サッシ戸になっていて、その向こうには狭い庭があった。
ハルトが僕を招いたのは、その細長いスペースだ。
「これ、何かわかる?」
蓋つきのポリバケツみたいな容器を指さして、ハルトが訊いてきた。
「コンポストだろ? うちにもあるよ。生ごみとか入れておくとたい肥になるやつ」
「うん。でも、ぼくんちのは特別すごいんだ」
ハルトがフタを取る。
中をのぞいたとたん、変なにおいが鼻を衝いた。
ハルトの身体にしみついているのと同じ、腐った肉みたいなあのにおいだ。
湿った黒い土に、奇妙なものが埋まっていた。
薄い桃色をした、おわん型の物体だ。
こんもり盛り上がった頂点には、薔薇色のぽっちが突き出ている。
「これがママ。いくら食べても、一晩ですぐもとに戻るんだよ」
背中がぞくっとした。
マジか。
あれは本当だったのか。
ホームルームの時、好きな食べ物を聞かれたハルトが、はにかみながら答えた言葉。
それは、
ーママのおっぱいー
だったのだ。
一年中同じ服しか着てこないし、そばに寄るとなんだかくさい。
うわさでは両親がいなくて、ボロボロに家にひとりで住んでいるらしい。
だから、給食だけが唯一の頼りで、学校が休みの日は何も食べないのだという。
その割にハルトは小太りで、肌もつやつやしていた。
冬休みが始まる日、不思議に思って訊いてみると、
「いいこと教えてあげるから、うちに来ない?」
と誘われた。
ふだん空気みたいに無視されているから、たまに話しかけられるとうれしいのだろう。
終業式の後、行ってみることにした。
こわいもの見たさというやつだ。
到着して、驚いた。
ハルトの家はうわさほどボロボロではなく、むしろ新築のようにきれいだった。
ただ不思議なのは、その一画の家々はみんな同じ平屋建てで、土台がなく、箱を地面にじかに置いたみたいな造りになっていることだ。
「ただいまあ」
元気よく言うハルトに続いて中に入った。
土間はなく、そこはもう直接畳敷きの床である。
家の中はしきりのない一つの長方形の空間で、真ん中にぽつんとちゃぶ台が置いてあるだけだ。
「家族はいないの? ごはんとかどうしてるんだ?」
空っぽの空間を見回して訊いてみると、「ママならいるよ。こっち」
にんまり笑ってハルトが手招きした。
そういえば、と思う。
以前、ホームルームで「好きな食べ物」について話し合った時、ハルトが変なことを口にしてみんなに笑われたことがある。
あれとなにか関係があるのだろうか。
奥の壁は一面サッシ戸になっていて、その向こうには狭い庭があった。
ハルトが僕を招いたのは、その細長いスペースだ。
「これ、何かわかる?」
蓋つきのポリバケツみたいな容器を指さして、ハルトが訊いてきた。
「コンポストだろ? うちにもあるよ。生ごみとか入れておくとたい肥になるやつ」
「うん。でも、ぼくんちのは特別すごいんだ」
ハルトがフタを取る。
中をのぞいたとたん、変なにおいが鼻を衝いた。
ハルトの身体にしみついているのと同じ、腐った肉みたいなあのにおいだ。
湿った黒い土に、奇妙なものが埋まっていた。
薄い桃色をした、おわん型の物体だ。
こんもり盛り上がった頂点には、薔薇色のぽっちが突き出ている。
「これがママ。いくら食べても、一晩ですぐもとに戻るんだよ」
背中がぞくっとした。
マジか。
あれは本当だったのか。
ホームルームの時、好きな食べ物を聞かれたハルトが、はにかみながら答えた言葉。
それは、
ーママのおっぱいー
だったのだ。
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