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第115話 ルッキズム(前編)

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 人間は顔じゃない、とよく言われるけど、私は顔だと思う。
 その証拠に、テレビやネットで持ち上げられるのは相変わらずイケメンや美少女ばかりだ。
 映画もアニメの主人公は絶対美男美女だし、こと我が国に関しては間違ってもブスやブサイクが主役の座を勝ち取ることはない。
 現実の生活でもその通りで、学校一の美少女のあたしにはみんな優しいのに、逆の立場のカナエには鬼のように冷たい。カナエなんてその場にいないかのようにガン無視するし、二人一組になる組体操では彼女はいつもひとりボッチなのだ。
 そんなわけだから、あたしはせいぜいカナエと仲良くすることにしている。
 カナエは引き立て役にもってこいだし、学校一の美少女であるあたしの優越感をちょうどいいぐらいにくすぐってくれるからである。

 ある日のこと、あたしはいつものようにカナエと歩いていた。
 下校時刻で、片側が森に面した通学路だ。
 田舎だから、『熊出没注意!』と大書された看板があちこちに立っている。
「百合ちゃんはいいね。顔もかわいくて、スタイルもいいし」
 ため息混じりにカナエが言った。
 カナエは人前ではめったに口を利かないが、あたしに対してだけは別である。
 あたしのことを友達と思っているらしく、よせばいいのに心を開いてくるのだ。
 こっちはなんとも思ってないってのに、ある意味、いい迷惑。
「高校卒業したら、上京するの? そしたらさびしくなるね」
 暗い表情でとぼとぼ歩きながら、カナエが続けた。
「モデルの話とか、芸能事務所からのお誘いとか、ま、いろいろ来てるけど、まだわかんないな」
 気のないふりして答えるあたし。
 正直、クマが出るようなこんな田舎、早くオサラバしたくてたまらない。
「あーあ、せめて百合ちゃんの10分の1でも可愛かったら、私もついてくのに」
 カナエが深いため息をついた時である。
 ガサッ。
 木々が揺れて、
 ガオーッ!
 雄たけびとともに、大きな黒いものが目の前に飛び出してきた。
 
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