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第112話 スーパーヒロイン綾香(前編)

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 やばっ。
 着替え始めてから気づいた。
 アンダースコートがない。
 家に忘れてきたのだ。
 仕方なかった。
 今日は試合である。
 そんなことで部活をさぼるわけにはいかない。
 ここは生パンツで行くしかない。

 悪いことは重なるもので、テニスウェアに着替えてコートに出ると、ペアを組んでいるタマエが言った。
「アヤカ、聞いた? 町に怪獣が出たって」
「は?」
 あたしはあんぐりと口を開けた。
「今なんて言ったの? 怪獣って聞こえたけど」
「ガチだって。ほら」
 差し出されたスマホの画面には、ビルをなぎ倒して歩く二足歩行の巨大なトカゲが映っている。
「こんなのどうせフェイク動画でしょ」
「それがそうでもないみたい。Xに同じような動画いっぱい上がってるし、テレビでもやってる」
「まじか」
 そこへコーチがやってきた。
「聞いたか。怪獣だ。今日の試合は中止。みんな早く帰れ」
「はあい」
 助かった。
 内心あたしはほっと胸をなでおろした。
 これですくなくとも、コートで観客たちにただで生パンを見せなくて済む。
 ところがー。
 悪いことは重なるものだ。
 着替えようと、タマエの後に続いて更衣室へと向かったあたしを、謎の声が呼び止めたのである。
「南野綾香さんですね。ちょっとお願いがあります」
 振り向くと、クラブハウスの陰に、アニメの美少女フィギュアみたいな、銀髪の女の子が佇んでいた。
 
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