超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

第96話 盗撮

　あたしは鏡の前でくるりと回ってみた。

　真っ白なフレアスカートが翻り、危うく中が見えそうになる。

　いい感じ。

　これならいけそうだ。

　早速、外出することにした。

　近くの駅に向かう。

　コンコースを入ると、隣接するデパートへ続く長いエスカレーターが見えてきた。

　この地域屈指の盗撮エリアである。

　果たして、あたしが乗り込むと、すぐ後ろに小太りの中年男がついてきた。

　黒縁メガネにギョロついた目。

　丸い身体にリュックを背負ったその姿は、絵にかいたような盗撮マニアのそれだ。

　あたしはわざと腰をかがめてみた。

　男が更に距離を詰め、スカートの中にスマホを差し入れるのがわかった。

　かかった！

　もっと見えるように、お尻を高くつき出してやる。

　スマホだけでは満足できなくなったのだろう。

　男が一歩段を上がり、頭をスカートの中に突っ込んできた。

　今だ!

　あたしは男の頭部をスカートで覆うようにして坐り込んだ。

　スカートが男の身体を包み込むと、中の下着が裂け、本当の”口”が開き、獲物を頭から呑み込んでいくー。




　おわかりだろうか。

　あたしは妖怪である。

　その名も怪奇イソギンチャク女。

　盗撮犯は、あたしにとって欠かせない、毎日のごちそうなのだ。