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第77話 離島怪異譚⑤
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『ホテル浦島』は、海を見下ろす小高い丘の上に位置していた。
ホテルとは名ばかりの、植え込みに囲まれた、二階建ての古い旅館である。
ガラガラの駐車スペースにワゴンRを突っ込むと、私は転がるように助手席から飛び出した。
「いらっしゃい。まあまあ、どうしたんだい? そんなにあわてて」
正面玄関から出て来た人の好さそうなおばさんが、血相を変えた私を見て、呆れたように言った。
「今村です。予約してあるはずですよね。まずはお部屋に通してください」
玄関にパンプスを脱ぎ散らかして、上がり框から磨き上げられた廊下に飛び上がる。
後ろを見たが、息を切らして入ってきたのは野崎だけで、あの少女の姿はない。
植え込みにでも隠れているのではないかと目を凝らしてみたが、どうもそんな様子もない。
知らず、安堵の吐息が漏れた。
あれは、何だったのだろう?
セーラー服のスカートの下からわらわらと出ていたものー。
あれは、間違いなく、吸盤だらけの醜い蛸の足だったのだ。
そして少女は私を睨みつけて、言ったのである。
-見たなー
と、憎々しげに、ただ一言。
まさに、化け物としか言いようがない。
そして、これは私の勘に過ぎないけれど、もしかするとあの化け物じみた少女が、連続殺人事件に何か関わっているかもしれないのだ…。
「せっかちなお嬢さんだねえ。お部屋なら、こっちですよ」
にこにこ笑いながら、女将さんが廊下を先に立って歩いていく。
「夫婦じゃありませんけど、僕は別に圭さんと同じ部屋でもいいんですよ」
おばさん相手に、野崎がそんな軽口を叩いている。
まったく、呑気なやつだ。
ホテルとは名ばかりの、植え込みに囲まれた、二階建ての古い旅館である。
ガラガラの駐車スペースにワゴンRを突っ込むと、私は転がるように助手席から飛び出した。
「いらっしゃい。まあまあ、どうしたんだい? そんなにあわてて」
正面玄関から出て来た人の好さそうなおばさんが、血相を変えた私を見て、呆れたように言った。
「今村です。予約してあるはずですよね。まずはお部屋に通してください」
玄関にパンプスを脱ぎ散らかして、上がり框から磨き上げられた廊下に飛び上がる。
後ろを見たが、息を切らして入ってきたのは野崎だけで、あの少女の姿はない。
植え込みにでも隠れているのではないかと目を凝らしてみたが、どうもそんな様子もない。
知らず、安堵の吐息が漏れた。
あれは、何だったのだろう?
セーラー服のスカートの下からわらわらと出ていたものー。
あれは、間違いなく、吸盤だらけの醜い蛸の足だったのだ。
そして少女は私を睨みつけて、言ったのである。
-見たなー
と、憎々しげに、ただ一言。
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