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第43話 謎の卵
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「ねえ、ママ。これ、何だと思う?」
トイレから出てきた娘のミカか訊いてきた。
ミカは小学3年生。
洗い物の手を休めて振り向くと、両手を皿のようにして、その上に白い卵のようなものを載せている。
「あら、卵じゃない。どうしたの?」
「トイレの中に落ちてたの。用を足す前に気づいてよかった」
「トイレに? 汚いわね。捨ててきなさい」
「大丈夫だよ、ちゃんと洗ったから。ねえ、それより、これ、何の卵だと思う? もしかして、パパが産んだのかな?」
私はぷっと噴き出した。
確かにさっきまでトイレに入っていたのは、夫の良平である。
しかし、いくらおなかが出ているからといって、男が卵を産むはずがない。
「起きたらパパに訊いてみたら?」
人間ドッグで疲れたと言って、早々と夫は寝室に引き上げてしまっている。
「わかった。そうする」
ミカがうなずいて、自分の部屋に足を向けた。
「それ、どうするの?」
あの卵を抱いたままなのを見て、思わずそう声をかけた。
「何か生まれるかもしれないから、温めてみる。ふふ、楽しみだね」
卵を撫でながら、うれしそうにミカが答えた。
翌日の日曜日。
寝ぼけまなこで起きてきた良平に昨夜のことを話すと、その童顔がさっと青ざめた。
「やばいよ、それ。すぐに取り上げないと」
急にそわそわと慌て出した。
「どうして? だいたいなんなの、あの卵?」
「卵なんかじゃないって。実はきのう、人間ドッグでバリウム飲まされてさ、後で排出するためにって下剤もらったんだけど、ほら、俺、胃腸あんまり丈夫じゃないだろ? だから放っておいたら、腹がみるまに張ってきて…それでたまらずトイレに飛び込んでいきんでみたら、肛門が張り裂けそうになってあれがコロンと出てきたんだ。でもって、俺。あまりの痛さに貧血起こして、あれ、拾うの忘れてそのまま寝ちゃったってわけ」
「ばかねえ。ちゃんと下剤飲まないから、おなかの中でバリウムが固まっちゃったのよ。あれはそもそも石灰みたいなものだから。あ。ていうことは、あの卵、外側はバリウムでできた殻で、でできた中身は…」
その思い付きに私は青ざめた。
「そう、十中八九、俺のウンチ」
済まなさそうに、良平が頭をかく。
「たいへん! ミカが割らないうちに、取り上げなきゃ!」
子ども部屋のドアをノックした。
「ミカ! 起きなさい!」
叫んでも、返事がない。
「どうしたんだろう?」
不安そうに良平がつぶやいた。
「開けるわよ!」
嫌な予感がして、急いでドアを開けた。
遅かった。
匂いでわかった。
すさまじい糞便の匂い。
「あーあ、だから言ったじゃない」
鼻をつまんで言った時、良平が「うっ」とくぐもった声でうめいた。
「な、なんだ。あれは?」
そして、私も見た。
ベッドの上に、ミカが裸で倒れている。
その胴と首に、糞便にまみれた百足のような生き物が巻きついている。
その正体に気づき、私は絶叫した。
それは、こともあろうに…。
巨大なサナダムシだったのだ。
トイレから出てきた娘のミカか訊いてきた。
ミカは小学3年生。
洗い物の手を休めて振り向くと、両手を皿のようにして、その上に白い卵のようなものを載せている。
「あら、卵じゃない。どうしたの?」
「トイレの中に落ちてたの。用を足す前に気づいてよかった」
「トイレに? 汚いわね。捨ててきなさい」
「大丈夫だよ、ちゃんと洗ったから。ねえ、それより、これ、何の卵だと思う? もしかして、パパが産んだのかな?」
私はぷっと噴き出した。
確かにさっきまでトイレに入っていたのは、夫の良平である。
しかし、いくらおなかが出ているからといって、男が卵を産むはずがない。
「起きたらパパに訊いてみたら?」
人間ドッグで疲れたと言って、早々と夫は寝室に引き上げてしまっている。
「わかった。そうする」
ミカがうなずいて、自分の部屋に足を向けた。
「それ、どうするの?」
あの卵を抱いたままなのを見て、思わずそう声をかけた。
「何か生まれるかもしれないから、温めてみる。ふふ、楽しみだね」
卵を撫でながら、うれしそうにミカが答えた。
翌日の日曜日。
寝ぼけまなこで起きてきた良平に昨夜のことを話すと、その童顔がさっと青ざめた。
「やばいよ、それ。すぐに取り上げないと」
急にそわそわと慌て出した。
「どうして? だいたいなんなの、あの卵?」
「卵なんかじゃないって。実はきのう、人間ドッグでバリウム飲まされてさ、後で排出するためにって下剤もらったんだけど、ほら、俺、胃腸あんまり丈夫じゃないだろ? だから放っておいたら、腹がみるまに張ってきて…それでたまらずトイレに飛び込んでいきんでみたら、肛門が張り裂けそうになってあれがコロンと出てきたんだ。でもって、俺。あまりの痛さに貧血起こして、あれ、拾うの忘れてそのまま寝ちゃったってわけ」
「ばかねえ。ちゃんと下剤飲まないから、おなかの中でバリウムが固まっちゃったのよ。あれはそもそも石灰みたいなものだから。あ。ていうことは、あの卵、外側はバリウムでできた殻で、でできた中身は…」
その思い付きに私は青ざめた。
「そう、十中八九、俺のウンチ」
済まなさそうに、良平が頭をかく。
「たいへん! ミカが割らないうちに、取り上げなきゃ!」
子ども部屋のドアをノックした。
「ミカ! 起きなさい!」
叫んでも、返事がない。
「どうしたんだろう?」
不安そうに良平がつぶやいた。
「開けるわよ!」
嫌な予感がして、急いでドアを開けた。
遅かった。
匂いでわかった。
すさまじい糞便の匂い。
「あーあ、だから言ったじゃない」
鼻をつまんで言った時、良平が「うっ」とくぐもった声でうめいた。
「な、なんだ。あれは?」
そして、私も見た。
ベッドの上に、ミカが裸で倒れている。
その胴と首に、糞便にまみれた百足のような生き物が巻きついている。
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