超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

戸影絵麻

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第38話 闖入者

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 イオンのレストランでバイキングを食べたら、突然便意に襲われた。
 俺にはよくあることである。
 胃が弱いくせに、つい元を取ろうと食べ過ぎてしまうのだ。
 空きトイレを求めてさまようこと数十分。
 日曜日のイオンは家族連れが多い。
 だから昼時となると、たいていトイレの個室はガキどもに占領されていて、空きを見つけるのが大変なのだ。
 2階の婦人服フロアでようやく発見。
 ダッシュで飛び込み、ベルトを緩め、便座に座り込む。
 ひと呼吸遅れて、ジェット噴射よろしく下痢便が肛門から噴出する。
 ふう。
 俺はため息をつき、額の汗をぬぐった。
 危ない所だった。
 もう1秒遅れていたら、間違いなくちびっていたところだったのだ。
 難を免れたものの、まだ腸の上のほうに残便感が残っている。
 どうせなら全部出そうと、気合を入れた時である。
 すごい勢いで、ドアが外から叩かれた。
 ったく、どこのガキだ。
 俺はむっとして、揺れるドアをにらみつけた。
 閉まってるんだから、人が入ってるに決まってるじゃないか。
 怒りに任せて、内側からドアを叩き返す。
 だが、いっこうに連打はやまない。
 いや、むしろ激しくなっているようだ。
「入ってます!」
 仕方なく、俺は叫んだ。
「やめてください。これ以上叩くと、警察呼びますよ!」
 うがあ。
 そのとたん、変な声がした。
 まるで獣のうなるような声。
 ずずずず。
 続いて、何かが這いずるような音がした。
 ふと、あたりが暗くなった。
 ん?
 便器に座ったまま、顔を上げた俺は、見た。
 トイレの壁と天井との間の隙間。
 そこから巨大な肉塊が押し出されてくる。
 尻だった。
 ふたつに割れた毛むくじゃらの尻が、狭い空間からはみ出てこっちを向いている。
「や、やめろォ!」
 絶叫した時には、すでに遅かった。
 次の瞬間、俺は怒涛のような下痢便の奔流を頭から浴び、その凄まじい悪臭に完全に窒息してしまっていた。

 
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