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第37話 呪い人形
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台風で土砂崩れが起こり、山のふもとの一軒の家がつぶれた。
ずっと空き家だったから被害者は出なかった。
学校帰り、その家の前を通りかかった時である。
「なんだこれ?」
土砂の中から、友人の加藤裕也が泥だらけの人形を拾いあげた。
市松模様の赤い着物を着た、日本人形である。
が、おかっぱに切りそろえた髪の下の顔は、右目がつぶれ、なぜか口から鋭い犬歯が生えていた。
「捨てなさいよ、そんなもの! なんかマジきもいじゃない!」
僕らと一緒に歩いていた木島愛花が、さもいやそうにそう言った。
僕も同感だった。
こんな醜い人形は、見たことがなかった。
「だよな」
裕也が大きくスィングバックして、人形を谷川に放り投げた。
「迷わず成仏しろよ」
ふざけて笑った裕也だったが、なぜかその顔は強張っていた。
その裕也が、死んだ。
その夜、高熱を発して、朝には帰らぬ人になってしまっていたのである。
通夜の時、真っ青な顔をした愛花が話しかけてきた。
「これ、見てくれる? 死ぬ直前、裕也が送ってきたの」
愛花の差し出すスマホをひと目見るなり、僕は吐きそうになった。
あの人形だ。
あの片目の人形の画像が、LINEメッセージに添付されている。
メッセージは、ただひと言。
ーやつを入れるなー
それだけだった。
「なんだと思うj? 裕也、もしかして、この人形に…?」
「バカなこと言うなよ。裕也が川に放り込むの、愛花だって見たろ? そんなのありえないって」
そう一笑に付した僕だったが、翌々日、裕也と同じ状況で愛花が死ぬと、もう笑ってなどいられなくなった。
「ふたりとも、何かに噛まれた跡があったんだって」
中学のクラスの中では、そんな噂が広まっていた。
警察官の父を持つクラスメイトが、実際に父親から聞いたのだという。
愛花の葬式の翌日から、僕は学校を休んで家に閉じこもった。
僕のスマホに、愛花からあの画像が送られてきていたからである。
間違いなく、次は僕の番だった。
親は何も言わなかった。
友人ふたりを相次いで亡くし、ショックを受けていると思ったからだろう。
ひきこもって二日後、真夜中に玄関の戸を叩く音がした。
「だあれ? こんな時間に?」
母の声に僕は震え上がった。
来た。
あいつだ。
あの人形だ。
入れるな。
入れちゃいけない!
裕也のメールの意味は、このことだったのだ。
叫ぼうとした時、拍子抜けしたように、母がこぼすのが聞こえてきた。
「やあね、誰もいないじゃないの」
違った。
僕は安堵のあまり、床に座り込んだ。
おおむね、風のいたずらだったのだろう。
その時、音がした。
音というより、声だった。
キキキキキキ…。
心臓を鷲掴みにされるような恐怖に、僕は縮みあがった。
おそるおそる、振り向いた。
部屋の真ん中に、奇怪なものがいた。
等身大の、あの人形だ。
キキキキキ…。
そう歯ぎしりのような声を上げながら、ゆっくりと回転している。
やがて回転がとまり、正面から片目が僕を見た。
白い所のない、真っ赤にただれた目…。
「見ツケタ」
そいつが言い、乱喰い歯のぎっしり植わった大きな口が迫ってきた。
ずっと空き家だったから被害者は出なかった。
学校帰り、その家の前を通りかかった時である。
「なんだこれ?」
土砂の中から、友人の加藤裕也が泥だらけの人形を拾いあげた。
市松模様の赤い着物を着た、日本人形である。
が、おかっぱに切りそろえた髪の下の顔は、右目がつぶれ、なぜか口から鋭い犬歯が生えていた。
「捨てなさいよ、そんなもの! なんかマジきもいじゃない!」
僕らと一緒に歩いていた木島愛花が、さもいやそうにそう言った。
僕も同感だった。
こんな醜い人形は、見たことがなかった。
「だよな」
裕也が大きくスィングバックして、人形を谷川に放り投げた。
「迷わず成仏しろよ」
ふざけて笑った裕也だったが、なぜかその顔は強張っていた。
その裕也が、死んだ。
その夜、高熱を発して、朝には帰らぬ人になってしまっていたのである。
通夜の時、真っ青な顔をした愛花が話しかけてきた。
「これ、見てくれる? 死ぬ直前、裕也が送ってきたの」
愛花の差し出すスマホをひと目見るなり、僕は吐きそうになった。
あの人形だ。
あの片目の人形の画像が、LINEメッセージに添付されている。
メッセージは、ただひと言。
ーやつを入れるなー
それだけだった。
「なんだと思うj? 裕也、もしかして、この人形に…?」
「バカなこと言うなよ。裕也が川に放り込むの、愛花だって見たろ? そんなのありえないって」
そう一笑に付した僕だったが、翌々日、裕也と同じ状況で愛花が死ぬと、もう笑ってなどいられなくなった。
「ふたりとも、何かに噛まれた跡があったんだって」
中学のクラスの中では、そんな噂が広まっていた。
警察官の父を持つクラスメイトが、実際に父親から聞いたのだという。
愛花の葬式の翌日から、僕は学校を休んで家に閉じこもった。
僕のスマホに、愛花からあの画像が送られてきていたからである。
間違いなく、次は僕の番だった。
親は何も言わなかった。
友人ふたりを相次いで亡くし、ショックを受けていると思ったからだろう。
ひきこもって二日後、真夜中に玄関の戸を叩く音がした。
「だあれ? こんな時間に?」
母の声に僕は震え上がった。
来た。
あいつだ。
あの人形だ。
入れるな。
入れちゃいけない!
裕也のメールの意味は、このことだったのだ。
叫ぼうとした時、拍子抜けしたように、母がこぼすのが聞こえてきた。
「やあね、誰もいないじゃないの」
違った。
僕は安堵のあまり、床に座り込んだ。
おおむね、風のいたずらだったのだろう。
その時、音がした。
音というより、声だった。
キキキキキキ…。
心臓を鷲掴みにされるような恐怖に、僕は縮みあがった。
おそるおそる、振り向いた。
部屋の真ん中に、奇怪なものがいた。
等身大の、あの人形だ。
キキキキキ…。
そう歯ぎしりのような声を上げながら、ゆっくりと回転している。
やがて回転がとまり、正面から片目が僕を見た。
白い所のない、真っ赤にただれた目…。
「見ツケタ」
そいつが言い、乱喰い歯のぎっしり植わった大きな口が迫ってきた。
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