超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

第17話 侵略者

「始めようか」
　タカシが言った。
　テーブルの上には、僕ら3人の血液が入ったシャーレ。
　タカシが右手に持っているのは、異星人検出用の試薬である。
「ああ」
　ナイフを握り直して、僕はうなずいた。
　試薬で血液が青色に染まったら、それは提供者が異星人に寄生されている証拠である。
　その時は、このナイフでとどめを刺さなければいけないのだ。
「私、こわい…」
　アカネが体を震わせ、両手で肩を抱く。
　この地下壕には僕ら3人しかいない。
　異星人の侵略から3か月。
　わずか3か月で人類の文明は破壊され、僕らはこんなところに追いつめられてしまった。
　なんせ、相手は不定形の寄生生物なのでる。
　寄生されたかどうか、血液検査以外では、判別のしようがないのだ。
「じゃ、まずは、アカネから」
　意地悪く言い、タカシがアカネの血液の入ったシャーレを手に取った。
　僕は知っている。
　この闘争のさなか、彼がことあるごとにアカネに言い寄り、拒絶され続けてきたことを。
　振られた恨みが募っているのだろう。
　タカシのやつ、アカネの結果がクロと出ることを願っているに違いない。
　案の定だった。
　タカシがスポイドで試薬を落とすと、アカネの血は見る間に。マリンブルーに変色した。
　決定だ。
　アカネはやつらに寄生されている。
「いやああ！」
　アカネが頭を抱えてうずくまる。
「違う！　そんなはずない！　私は人間よ！」
「だと思った」
　にやりと笑うタカシ。
「さあ、ジロー、やるんだ」
「いや」
　僕は首を振った。
「検査を続けよう。寄生されてるのはアカネだけとは限らないだろ」
「時間の無駄だと思うが」
　楽しみを奪われた子供のように、むっとするタカシ。
「まあ、いいだろう」
　だが、結果は驚くべきものだった。
「こ、これは、どういうことだ…？」
　マリンブルーに染まった3つのシャーレを見つめて、呆然とタカシがつぶやいた。
「見ての通りさ。俺たちは、いつのまにか全員、異星人に寄生されていたんだ」
　ぽかんとしているアカネを助け起こしながら、僕は言った。
「誰か呼んでる」
　立ち上がったアカネが、天井に視線を向けた。
「この上に、誰かいる」
「そ、そんな…俺は、信じないぞ。俺は人間だ」
　タカシがあとじさった。
「別にいいさ。おまえはそこで飢え死にするんだな」
　僕はアカネの手を取った。
　同志ならではの肌のぬくもりに、心が癒される。
「どうするつもりだ？」
　タカシがわめいた。
「決まってるだろ。仲間の所へ行くんだよ」
　天井を通して、着陸した宇宙船のシルエットがぼんやり見えている。
　中にはおいしい食べ物も、あたたかいベッドもあるだろう。
　ラッキーとしかいいようがない。
　人間のままでいたら、どちらも一生手に入らないところだったのだ。
「行こう」
　僕はアカネの肩を抱き、仲間たちの待つ地上へと、ゆっくり歩き始めた。