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#33 パートナー①
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何度も繰り返していると、変身もスムーズになるらしい。
内臓の塊に戻る時間が大幅に短縮され、玉はすぐに元の見慣れた自分に戻ることができた。
ただ、着衣の上下があべこべになる現象は解消されず、涼の目の前で着直さなければならないのには閉口した。
「うは。元に戻れるんだ」
おたまじゃくしに髪の毛が生えたような玉の顔をまじまじと見て、涼が言った。
「でも、どうなの? 玉としては、さっきの美少女の姿のほうが、色々とやりやすいんじゃないの?」
「うーん」
制服のあちこちに付着した肉片やら埃やらを払い落としながら、玉は首をかしげた。
「それは確かにその通りなんだけど…今回の件で、私、気づいたことがあるんだよ」
「気づいたこと?」
「そう。ちょっと前までは、この顔もこの身体も嫌いだったんだけどね」
玉は元に戻った自分の貧弱な肢体を見回した。
変身後とは比べるべくもない、洗濯板みたいな胸。
骨ばった尻。
「でも、殺処分にされそうになって思った。私のこの顔もこの身体も、そこまで言われる筋合いなんてない。だから私は、このままで生きなきゃならないんだって。そういう意味では、リバースは最後の手段。ずっと春風小夏でいる気はないの」
「それを聞いて安心したよ」
涼の浅黒い顔に、白い歯が光った。
「俺はやっぱ、今目の前にいる玉が好きだな。なんか落ち着く。守ってあげたいって気分になるもんね」
「まあ、実際、守ったのは私のほうだけど」
おかしさがこみあげてきて、ふたり同時に吹き出した。
「で、どうする? これから?」
笑いの衝動が収まると、真顔に戻って涼が訊いた。
「とりあえず今は逃げるとして、明日から」
「ん? 普通に学校へいけばいいんじゃない?」
「でも、メルたちに、なにされるかわかんないぜ」
「だからといって、逃げる必要はないと思う。私、決心したんだ。もう、いじめにも泣き寝入りしないって」
玉は薄い胸を張った。
ブスで何が悪いのだ。
今は強くそう思う。
リバースを身につけてよかった点は、美少女に変身できるようになったことではない。
この心の強さを得られたことが、何よりのプラスに違いない。
崩壊した工場を後にして、市バスに乗った。
明日の再会を約束して、涼は途中の停留所で降りていった。
家に着き、
「ただいま」
そう声をかけると、
「どこほっつき歩いてたんだよ! このブスが!」
母の怒声が飛んできた。
「ごめんなさい。学校で居残りが」
あわてて部屋に飛び込み、ドアを背中で押さえた。
その時である。
額のあたりから、妙な声が聞こえてきたのは。
『ああ、やっと君の身体とのシンクロが完了したよ。どうだい? リバースの使い心地は?』
「あ」
玉は茫然と口を開けた。
「あなた、あの時の、猫ちゃんじゃない」
内臓の塊に戻る時間が大幅に短縮され、玉はすぐに元の見慣れた自分に戻ることができた。
ただ、着衣の上下があべこべになる現象は解消されず、涼の目の前で着直さなければならないのには閉口した。
「うは。元に戻れるんだ」
おたまじゃくしに髪の毛が生えたような玉の顔をまじまじと見て、涼が言った。
「でも、どうなの? 玉としては、さっきの美少女の姿のほうが、色々とやりやすいんじゃないの?」
「うーん」
制服のあちこちに付着した肉片やら埃やらを払い落としながら、玉は首をかしげた。
「それは確かにその通りなんだけど…今回の件で、私、気づいたことがあるんだよ」
「気づいたこと?」
「そう。ちょっと前までは、この顔もこの身体も嫌いだったんだけどね」
玉は元に戻った自分の貧弱な肢体を見回した。
変身後とは比べるべくもない、洗濯板みたいな胸。
骨ばった尻。
「でも、殺処分にされそうになって思った。私のこの顔もこの身体も、そこまで言われる筋合いなんてない。だから私は、このままで生きなきゃならないんだって。そういう意味では、リバースは最後の手段。ずっと春風小夏でいる気はないの」
「それを聞いて安心したよ」
涼の浅黒い顔に、白い歯が光った。
「俺はやっぱ、今目の前にいる玉が好きだな。なんか落ち着く。守ってあげたいって気分になるもんね」
「まあ、実際、守ったのは私のほうだけど」
おかしさがこみあげてきて、ふたり同時に吹き出した。
「で、どうする? これから?」
笑いの衝動が収まると、真顔に戻って涼が訊いた。
「とりあえず今は逃げるとして、明日から」
「ん? 普通に学校へいけばいいんじゃない?」
「でも、メルたちに、なにされるかわかんないぜ」
「だからといって、逃げる必要はないと思う。私、決心したんだ。もう、いじめにも泣き寝入りしないって」
玉は薄い胸を張った。
ブスで何が悪いのだ。
今は強くそう思う。
リバースを身につけてよかった点は、美少女に変身できるようになったことではない。
この心の強さを得られたことが、何よりのプラスに違いない。
崩壊した工場を後にして、市バスに乗った。
明日の再会を約束して、涼は途中の停留所で降りていった。
家に着き、
「ただいま」
そう声をかけると、
「どこほっつき歩いてたんだよ! このブスが!」
母の怒声が飛んできた。
「ごめんなさい。学校で居残りが」
あわてて部屋に飛び込み、ドアを背中で押さえた。
その時である。
額のあたりから、妙な声が聞こえてきたのは。
『ああ、やっと君の身体とのシンクロが完了したよ。どうだい? リバースの使い心地は?』
「あ」
玉は茫然と口を開けた。
「あなた、あの時の、猫ちゃんじゃない」
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