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#29 殺処分⑤
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ほかに行くところもなく、仕方なく梯子を下りると、そこはコンクリートむき出しの、教室ひとつ分ほどの広さの部屋だった。
不気味なのは、床の真ん中に丸い穴が開いていて、そこにどろどろした血が一杯溜まっているところである。
「そこに座れ」
野太い声がして、奥の暗がりから、上半身裸の大男が現れた。
頭部にぼろ布でできたマスクをかぶっている。
よく見ると、目と口の部分にだけ穴が開いたそれは、布ではなく、動物の皮でできているようだ。
男は片手に巨大な刃物を持っていた。
刀身が反り返った、幅の広い牛刀である。
男がその牛刀の切っ先で指し示したのは、穴の縁に置かれた台のようなものだった。
台はふたつあって、どちらも飛び散った血で赤黒く汚れてしまっている。
「正座して、その台に顎を乗せるのだ」
腹の底から絞り出すような声で、もう一度男が言った。
頭の回転のあまりよくない玉にも、その台の用途はすぐにわかった。
断頭台だ。
おそらく、あそこに顎を乗せたが最後、あの恐ろしい牛刀で首を叩き切られてしまうのだろう。
「できないよ…」
玉の後ろに隠れるようにして、涼が言った。
顔つきはゴリラなのに、かなり気弱な性格らしく、半泣きになっている。
涼が怯えれば怯えるほど、逆に玉は肝っ玉が据わってくるようだった。
仕方ない。
ここまで来たら、やるしかない。
いきなりスカートの後ろをめくりあげて、玉は涼にささやいた。
「涼君、見て。私のお尻、しっぽが生えてるでしょ」
「うは、ほんとだ」
泣くのをやめて、絶句する涼。
「それを、力いっぱい、引っ張って」
レザーフェイスの処刑人を睨みつけながら、鋭い口調で玉は言った。
「え?」
涼のぽかんとした顔が目に見えるようだ。
「いいから、早く。ここで死にたくなければ、しっぽを引っ張るの」
「う、うん」
しっぽのつけ根を握られる感触。
「い、行くよ」
決意を固めた涼の声。
しっぽに力が加わり、ずるりと伸びた。
ぐしゃり。
玉の額が陥没する。
「わわわわ」
あわてる涼。
驚いて手を放したが、いったん進行し始めた変化はもう止まらない。
ぐしゅ。
ばりばりばり。
裏返る。
玉の身体が、すごい勢いで裏返っていく。
表皮が内側に巻き込まれ、表面にぴくぴく蠢く内蔵の束が現れた。
めくるめく快感に、玉は恍惚となった。
「な、なんだ? おまえは?」
牛刀男が遠くで叫んでいる。
玉の着ていた制服の中は、ブドウみたいに外側に内臓をぶら下げた奇怪な肉体で、もうはちきれんばかりだ。
が、それが見えたのは、一瞬のことだった。
2度目の変身は速やかだった。
レザーフェイスが衝撃から立ち直る前に、体表の”コーティング作業”が始まったのだ。
不気味なのは、床の真ん中に丸い穴が開いていて、そこにどろどろした血が一杯溜まっているところである。
「そこに座れ」
野太い声がして、奥の暗がりから、上半身裸の大男が現れた。
頭部にぼろ布でできたマスクをかぶっている。
よく見ると、目と口の部分にだけ穴が開いたそれは、布ではなく、動物の皮でできているようだ。
男は片手に巨大な刃物を持っていた。
刀身が反り返った、幅の広い牛刀である。
男がその牛刀の切っ先で指し示したのは、穴の縁に置かれた台のようなものだった。
台はふたつあって、どちらも飛び散った血で赤黒く汚れてしまっている。
「正座して、その台に顎を乗せるのだ」
腹の底から絞り出すような声で、もう一度男が言った。
頭の回転のあまりよくない玉にも、その台の用途はすぐにわかった。
断頭台だ。
おそらく、あそこに顎を乗せたが最後、あの恐ろしい牛刀で首を叩き切られてしまうのだろう。
「できないよ…」
玉の後ろに隠れるようにして、涼が言った。
顔つきはゴリラなのに、かなり気弱な性格らしく、半泣きになっている。
涼が怯えれば怯えるほど、逆に玉は肝っ玉が据わってくるようだった。
仕方ない。
ここまで来たら、やるしかない。
いきなりスカートの後ろをめくりあげて、玉は涼にささやいた。
「涼君、見て。私のお尻、しっぽが生えてるでしょ」
「うは、ほんとだ」
泣くのをやめて、絶句する涼。
「それを、力いっぱい、引っ張って」
レザーフェイスの処刑人を睨みつけながら、鋭い口調で玉は言った。
「え?」
涼のぽかんとした顔が目に見えるようだ。
「いいから、早く。ここで死にたくなければ、しっぽを引っ張るの」
「う、うん」
しっぽのつけ根を握られる感触。
「い、行くよ」
決意を固めた涼の声。
しっぽに力が加わり、ずるりと伸びた。
ぐしゃり。
玉の額が陥没する。
「わわわわ」
あわてる涼。
驚いて手を放したが、いったん進行し始めた変化はもう止まらない。
ぐしゅ。
ばりばりばり。
裏返る。
玉の身体が、すごい勢いで裏返っていく。
表皮が内側に巻き込まれ、表面にぴくぴく蠢く内蔵の束が現れた。
めくるめく快感に、玉は恍惚となった。
「な、なんだ? おまえは?」
牛刀男が遠くで叫んでいる。
玉の着ていた制服の中は、ブドウみたいに外側に内臓をぶら下げた奇怪な肉体で、もうはちきれんばかりだ。
が、それが見えたのは、一瞬のことだった。
2度目の変身は速やかだった。
レザーフェイスが衝撃から立ち直る前に、体表の”コーティング作業”が始まったのだ。
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