リバース醜少女戦士 玉 

戸影絵麻

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#28 殺処分④

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 薄暗い工場の中。
 高い天井に張り巡らされた鋼鉄の梁から、赤茶けた枝肉のようなものが無数に吊り下げられいる。
 その光景は、肉牛や豚の屠場にそっくりだ。
 が、違うのは、吊り下げられた肉の正体だった。
 皮をはがれて赤剥けになったそれらは、明らかに人間の死体なのである。
 体つきからして、男も女もいるようだ。
 しかし、そのどれもが首をはねられ、両足首を鉄の鉤で貫かれ、逆さにぶら下げられているのだ。
「まずは血抜きだ。その後、ああして一晩寝かせてだな、最後にはミンチにする」
 よせばいいのに、迷彩服の男がていねいに説明してくれる。
「ミンチにしたら、ハンバーグやミートボールにして、給食センターに格安で売る。余った分は、家畜の餌だ。な、こうしてみると、おまえらも、けっこう陰で社会の役に立ってるだろ?」
「おまえらって…あれは、みんな…?」
 悲痛な声で、玉はたずねた。
「そうさ。今頃わかったのか。あれは全国から集められた殺処分クラスの人間たちだよ。大人もいれば、子供もいる。学校だけじゃない。今、日本政府は国民の顔面偏差値の平均を上げるのに、必死なんだ。なぜかって? 考えてもみろ。今の日本には、金もなければ技術もない。若者は減り、高齢者は増える一方だ。そこに、今度の”ノアの箱舟計画”と来た。日本国民が生き延びる道は、もう顔で選ばれるしかなくなっちまったんだよ」
「ノアの箱舟…って?」
 聞きなれぬ言葉だった。
「おまえ、そんなことも知らないのか? いったい、学校で何勉強してるんだ?」
 自衛隊員があきれ顔で言う。
「半年後に地球は破滅するって、去年だったか、日米共同で作った生体素子コンピュータ、”ハル”が、そんな予言をしたことがあっただろ? そん時からひそかに進められてる火星移住計画だよ。新天地に行けるのは、先進国の選ばれた人間だけなんだってよ」
「だから、邪魔なブスは殺すってこと?」
 胃がむかむかしてきた。
 半年後と言えば、奇しくもあの猫型生物が予言した内容と一致する。
 破滅の天使とやらは、本当に来るということなのか。
「さ、冥土の土産にこれだけ聞いとけば本望だろ。さあ、行きな」
 背中を押され、玉はよろよろと前に進み出た。
 右手は床がくりぬかれていて、そこから地下に向かって梯子が下がっている。
 死体はどうやら、その穴の中からフックに吊るされて、ワイヤで天井まで上がっていくようだ。
「血ぬきは下だよ。梯子を使って降りるんだ」
 それだけ言うと、自衛隊員は工場の外に出て行った。
 外からボタンを押したのだろう。
 シャッターが閉まり始めた。
「どうしよう」
 涼がめそめそ泣き出した。
「どうせ死ぬんでも、俺、あんなふうにはなりたくないよ」
「とにかく、降りてみようよ」
 玉は涼の手を取った。
「私に任せて。考えがある」


 
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