リバース醜少女戦士 玉 

戸影絵麻

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#27 殺処分③

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 だめ。まだよ。
 玉はとっさにスカートの中に手を入れて、動きき出したしっぽをパンツの中にねじ込んだ。
 ここで変身しても、意味はない。
 これはいわば、私の切り札なのだ。
 リバースの力を試すのは、もっと先になってから。
 この際、幽霊と思われてもいい。
 ただ無抵抗に、野良犬みたいに殺されるよりはましだろう。
 リバースは、きっと何かの役に立つ。
 ここまで追い詰められて、やっと玉はそう思うことができた。
「早く出るんだ」
 自衛隊員みたいな迷彩服を着た屈強な男がふたり、玉と涼を引きずり出してワゴン車に放り込んだ。
 檻みたいな空間に押し込められ、膝を抱えて向かい合って座っていると、やがて車が動き出した。
「行き先が保健所だなんて、俺たち、ほんと、野良犬か野良猫扱いだよな」
 膝に顔を埋ずめて、悲しそうに涼が言う。
「こんなのおかしいよ。りっぱな殺人じゃない」
 そんな涼を見ていると、だんだん怒りが込み上げてきた。
 私たちは悪くない。
 ブスやブサメンにだって、人権はあるはずだ。
 こんな非道が、許されていいはずがない。
「でもさあ、1000人のうち、2人くらいいなくなったって、誰も気づかないんじゃないのかなあ。ましてや俺の家族なんて、俺がいなくなったら大喜びするだけでさ、捜索願も出してくれないだろうし」
「うーん、それはうちも同じ。否定できないね」
「だろ? メルの狙いはそこなんだよ。家族にも疎まれてる不細工をチョイスして殺処分にする。それだけで学校の平均顔面偏差値は大きくアップするってわけだ」
「ひどいよね…。自分がちょっと美人だからって」
「まあね。でも、それはメルだけじゃなく、世の中全体の風潮でもあるわけだろ? 社会自体が変わらなきゃ、俺たちは永久に報われないのさ」
 あきらめたように、涼が言った。
 
「降りろ」
 いつのまにか車が止まっていた。
 運転席と助手席から降りてきた自衛隊員風の男たちが、再び玉たちを引きずり下ろした。
 そこは、保健所というより、工場の敷地内みたいな場所だった。
 正面に、入口にシャッターーの下りた四角い建物があり、敷地全体は金網フェンスで囲まれている。
 どこからか、異臭が流れてくるが、それが何の臭いなのかはわからない。
「入れ」
 男のひとりが言うと、もうひとりが壁際のボタンを押した。
 ギシギシと軋みながら、シャッターが巻き上がっていく。
 臭いがきつくなってきた。
 徐々に建物の中が見えてくる。
 目の前に展開する光景が表すものに気づいたとたん、
「う」
 たまらず玉は嘔吐した。


 

 
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