リバース醜少女戦士 玉 

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
26 / 40

#26 殺処分②

しおりを挟む
 エレベーターよろしく床が沈んでいき、ついたのは舞台の下の狭苦しい部屋だった。
 裸電球に照らされて目の前に扉があり、おそらくその先が外につながっているのだろうと思われた。
「長沢美容クリニックって、ひょっとして…」
 ずっと思っていた疑問を口にすると、涼が玉の倍はあるゴリラ顔をしかめてこう言った。
「もちろん、メルの父親が経営する病院さ。今回のこのイベントは、あらかじめ仕組まれてたんだよ」
「でも、わけがわからない。どうしてそんな、ただの個人病院の意向に、やすやすと学校が従うわけ?」
「今度、この希望が丘中を、長沢クリニックが買い取って私立にするって話があるらしいんだ。国の財政難とやらで、全国的に公立学校への補助金がごっそり削られるんだって。国はこれからは教育を地方自治体や民間企業に一任するってスタンスらしい。そうなると、学校の自治も、当然、その経営母体に任されるというわけさ」
 顔に似合わず、涼の話しぶりはずいぶんと知的なものだった。
 社会科という教科が体育に次いで苦手な玉は、それだけでこのブサメン少年に尊敬の念を抱いた。
「人間は顔じゃないって、よく言うけど、あれ、嘘だよね」
 やり切れぬ思いで、玉はため息をついた。
「ああ、嘘っぱちさ。人は、第一印象だけで、相手を判断する。第一印象が悪ければ、もうそれ以上、その相手のことを知ろうなんて思わなくなるもの。だから、いくら内面を磨いても、無駄だっていうことだよ。相手の中身を知ろうともしないのに、人間は顔じゃない、中身だ、なんてよく言えるよな」
 涼の言葉は、清水のように玉の心に沁み込んだ。
 それは、これまで玉がぼんやり思い抱きながらも、語彙が少なすぎて表現できなかった論理だった。
 そうなのだ。
 この世界に不細工に生まれた人間の居場所なんてない。
 それこそ、生きながら殺処分に付されているようなものなのだから。
 でも、と思わずにはいられない。
 それでいいのだろうか。
 動物の世界は、そんなふうじゃ、ないはずだ。
 人間だけが、どうして相手の容姿ですべてを決めてしまうのか。
 そんなの、どこか、間違っている…。
「あ、扉が開くぞ」
 涼の声に顔を上げると、部屋の中に光が差し込んでくるところだった。
 やがて、開いた扉の向こうに、校庭が見えてきた。
 来るときに見た、救急車のようなワゴン車が、何十台も止まっている。
 どうやらさっきより、数が増えているようだ。
 よく見ると、似てはいるが、それらは救急車などではなかった。
 横腹に、大きな文字で、『長沢美容クリニック』と書いてあるのだ。
 そして、その中に、1台だけ、黒塗りの車があった。
 『保健所』という文字がいかにも禍々しい、後部が檻みたいになった、囚人護送車みたいな車である。
「あれに乗るのね」
 玉はぞくりと身を震わせた。
「くやしいよなあ。たかが顔のことで、殺されちゃうなて」
 寂しそうにつぶやく涼。
 玉の尻で、あのしっぽーリバース体ーが波打ったのは、その時だった。

 




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滅・百合カップルになれないと脱出できない部屋に閉じ込められたお話

黒巻雷鳴
ホラー
目覚めるとそこは、扉や窓のない完全な密室だった。顔も名前も知らない五人の女性たちは、当然ながら混乱状態に陥り── あの悪夢は、いまだ終わらずに幾度となく繰り返され続けていた。 『この部屋からの脱出方法はただひとつ。キミたちが恋人同士になること』 疑念と裏切り、崩壊と破滅。 この部屋に神の救いなど存在しない。 そして、きょうもまた、狂乱の宴が始まろうとしていたのだが…… 『さあ、隣人を愛すのだ』 生死を賭けた心理戦のなかで、真実の愛は育まれてカップルが誕生するのだろうか? ※この物語は、「百合カップルになれないと脱出できない部屋に閉じ込められたお話」の続編です。無断転載禁止。

凶兆

黒駒臣
ホラー
それが始まりだった。

都市伝説 短編集

春秋花壇
ホラー
都市伝説 深夜零時の路地裏で 誰かの影が囁いた 「聞こえるか、この街の秘密 夜にだけ開く扉の話を」 ネオンの海に沈む言葉 見えない手が地図を描く その先にある、無名の場所 地平線から漏れる青い光 ガードレールに佇む少女 彼女の笑顔は過去の夢 「帰れないよ」と唇が動き 風が答えをさらっていく 都市伝説、それは鏡 真実と嘘の境界線 求める者には近づき 信じる者を遠ざける ある者は言う、地下鉄の果て 終点に続く、無限の闇 ある者は聞く、廃墟の教会 鐘が鳴れば帰れぬ運命 けれども誰も確かめない 恐怖と興奮が交わる場所 都市が隠す、その深奥 謎こそが人を動かす鍵 そして今宵もまた一人 都市の声に耳を澄ませ 伝説を追い、影を探す 明日という希望を忘れながら 都市は眠らない、決して その心臓が鼓動を刻む 伝説は生き続ける 新たな話者を待ちながら

無能な陰陽師

もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。 スマホ名前登録『鬼』の上司とともに 次々と起こる事件を解決していく物語 ※とてもグロテスク表現入れております お食事中や苦手な方はご遠慮ください こちらの作品は、 実在する名前と人物とは 一切関係ありません すべてフィクションとなっております。 ※R指定※ 表紙イラスト:名無死 様

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

二人称・短編ホラー小説集 『あなた』

シルヴァ・レイシオン
ホラー
普通の小説に読み飽きたそこの『あなた』 そんな『あなた』にオススメします、二人称と言う「没入感」+ホラーの旋律にて、是非、戦慄してみて下さい・・・・・・ ※このシリーズ、短編ホラー・二人称小説『あなた』は、色んな"視点"のホラーを書きます。  様々な「死」「痛み」「苦しみ」「悲しみ」「因果」などを描きますので本当に苦手な方、なんらかのトラウマ、偏見などがある人はご遠慮下さい。  小説としては珍しい「二人称」視点をベースにしていきますので、例えば洗脳されやすいような方もご観覧注意、願います。

暗闇の中の光

ねむたん
ホラー
地球規模の人口増加により、自然食品の供給が限界を迎えた近未来。人々は人工食品「ニュートラフェア」を日々の糧とする生活を送っていた。しかし、ある日その食品に含まれる化学物質が予期せぬ健康被害を引き起こし、社会全体を混乱の渦に巻き込む。

処理中です...