リバース醜少女戦士 玉 

戸影絵麻

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#17 美醜審問会①

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 優に30分以上遅れて教室に戻ると、戸を開けた瞬間頭上から濡れ雑巾が降ってきた。
 たちまち爆笑の渦に包まれる玉。
 が、日常茶飯の出来事なので、玉にとり、このくらいはなんということはない。
 むしろ、水の入ったバケツが落ちてこなかっただけましだった。
 頭に雑巾を乗せたまま席に急ぐ。
 机の上は朝より増えたメモ用紙で地肌も見えないほどである。
 ついでに花を生けた空のペットボトルが立っていて、ご丁寧にも黒のマジックで、
『玉の墓』
 と書いてある。
「何してたんだ? 体育の授業が終わってから、何分経ったと思ってる?」
 苛立たしげな教師の声に首をすくめると、玉は黙ってお辞儀をした。
 何を言っても言い訳になる。
 ここは沈黙を保った方が得策だ。
 こんなふうに玉は普段ほとんどしゃべらないので、教師たちの中には玉を聾唖者と思っている者もいるほどだ。
 この数学教師もその例にもれず、無駄な追及はすぐにあきらめたようだった。
「もういい。座れ」
 投げやりに言って、くるりと玉に背を向け、板書の続きにかかった。
 ふう。
 そっとため息をついて、机の中から数学の教科書を取り出そうとした時である。
 ふいにガタンと椅子の倒れる音がした。
「おったま、おまえ、なんで生きてるんだ?」
 立ち上がってぶるぶる震えているのは、桃山だ。
 その隣で蒼ざめているのは、亜美だった。
 無理もなかった。
 内臓の塊と化した玉を焼却炉に捨てたのはこのふたりなのだ。
 おそらく、幽霊でも出たと思っているのに違いない。
 玉は左右に離れた目で、無表情にふたりを眺めた。
 びっくりするのは、それだけじゃないんだよ。
 ふと、しっぽを引っ張って変身したい衝動にかられ、玉は机の下でこぶしをにぎりしめた。
 ここで春風小夏似のあの美少女に変身してやったら、みんなどんなに驚くことだろう。
 そう思ったのだ。
「どうした? 桃山?」
 教師にひと睨みされ、桃山が大きな体を椅子に埋めていく。
 そんな桃山を見て、玉は心の中でくすりと笑った。
 いい気味。
 私を焼き殺そうとした罰だよ。
 もっと怯えるがいい。
 
 
 
 

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