リバース醜少女戦士 玉 

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
15 / 40

#15 リバーシブル③

しおりを挟む
 いつのまにか脱げてしまっていた制服を、くすぶるごみの山から引っ張り出すと、玉は急いで身に着けた。
「おまえさん、どっかで見た顔だのう」
 しげしげとそんな玉を見つめながら、権蔵が言った。
 いぶかしげに目を細め、鶴のように筋張った首を不思議そうにかしげている。
「玉井玉です。3年E組の」
 名乗ったところで知るわけないだろうとは思ったが、一応自己紹介しておくことにした。
「玉井、玉じゃと? うんにゃ、そんなへんてこりんな名前ではなかったはずだが…うーん、思い出せん」
「す、すみませんでした。お仕事の邪魔しちゃって。じゃ、授業がありますから、私、これで」
 老人の視線を背中に感じながら、パタパタと走り出す。
 いけない。
 遅刻もいいところだ。
 もう、とっくの昔に3時間目の授業は始まってしまっている。
 こんなに遅れて入っていったら、いやでも目立つし、それに、いったいどう言い訳したらいいんだろう?
 気がついたら、焼却炉の中に入っていました。
 なんて正直に話しても、誰も信じてくれないに決まっている。
 第一、玉自身にも、何がわが身に起きたのか、皆目わかっていないのだ。
 亜美にしっぽを引っ張られているうちに、だんだん変な感じになってきて、いつしか意識が飛んでしまっていた。
 そして気づいたら、あの焼却炉のごみの中だったのだ。
 校舎の角を曲がろうとした時だった。
 ガラス窓に映る己の姿を目に止めるなり、玉はぎくりと立ち止まった。
 廊下が暗いため、一時的に鏡と化したガラス窓に、見慣れぬ女の子が映っている。
 いや、正確には、”どこかで見たことのある”、女の子の姿である。
 ふんわりと顔を覆った栗色の髪。
 ぱっちりしたアーモンド型の目。
 上品な鼻と口。
 白いブラウスを押し上げる胸は驚くほどふくよかで、腰がかっこよくきゅっと引き締まり、スカートから突き出た足も長くてまるでモデルのよう。
 反射的に周りを見た。
 が、当然のことながら、今この校舎裏にいるのは玉ひとりである。
「ま、まさか」
 口に手を当てると、窓に映った美少女も同じしぐさをする。
 更に決定的なのは、少女にもしっぽが生えていることだった。
 ミニ丈のプリーツスカートの後ろから、あの大腸みたいな肉色のしっぽがひょろりと垂れ下がっているのだ。
「こ、これが、私…?」
 玉はまじまじと窓に映る己の顔を見た。
 すごい…。
 夢みたい…。
 この顔、このスタイル…。
 可愛くて、セクシーで、そう…。
 まるで、アイドルタレントだ…。
 じわじわと喜びがこみあげてきた。
 もしかして、これが、リバース?
 あの猫ちゃんが言ってた、超能力?
 それにしても、と思う。
 この顔、誰かに似ている。
 うーん、誰だったろう…?
 ふと玉の脳裏に、つい数時間前に見た、額縁に入れられた写真が去来した。
「あ」
 玉はあんぐりと口を開けた。 
 なんてこと…。
 これって、小夏ちゃんの顔じゃない!
 
 


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凶兆

黒駒臣
ホラー
それが始まりだった。

都市伝説 短編集

春秋花壇
ホラー
都市伝説 深夜零時の路地裏で 誰かの影が囁いた 「聞こえるか、この街の秘密 夜にだけ開く扉の話を」 ネオンの海に沈む言葉 見えない手が地図を描く その先にある、無名の場所 地平線から漏れる青い光 ガードレールに佇む少女 彼女の笑顔は過去の夢 「帰れないよ」と唇が動き 風が答えをさらっていく 都市伝説、それは鏡 真実と嘘の境界線 求める者には近づき 信じる者を遠ざける ある者は言う、地下鉄の果て 終点に続く、無限の闇 ある者は聞く、廃墟の教会 鐘が鳴れば帰れぬ運命 けれども誰も確かめない 恐怖と興奮が交わる場所 都市が隠す、その深奥 謎こそが人を動かす鍵 そして今宵もまた一人 都市の声に耳を澄ませ 伝説を追い、影を探す 明日という希望を忘れながら 都市は眠らない、決して その心臓が鼓動を刻む 伝説は生き続ける 新たな話者を待ちながら

無能な陰陽師

もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。 スマホ名前登録『鬼』の上司とともに 次々と起こる事件を解決していく物語 ※とてもグロテスク表現入れております お食事中や苦手な方はご遠慮ください こちらの作品は、 実在する名前と人物とは 一切関係ありません すべてフィクションとなっております。 ※R指定※ 表紙イラスト:名無死 様

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

人形の輪舞曲(ロンド)

美汐
ホラー
オカルト研究同好会の誠二は、ドSだけど美人の幼なじみーーミナミとともに動く人形の噂を調査することになった。 その調査の最中、ある中学生の女の子の異常な様子に遭遇することに。そして真相を探っていくうちに、出会った美少女。彼女と人形はなにか関係があるのか。 やがて誠二にも人形の魔の手が迫り来る――。 ※第1回ホラー・ミステリー小説大賞読者賞受賞作品

二人称・短編ホラー小説集 『あなた』

シルヴァ・レイシオン
ホラー
普通の小説に読み飽きたそこの『あなた』 そんな『あなた』にオススメします、二人称と言う「没入感」+ホラーの旋律にて、是非、戦慄してみて下さい・・・・・・ ※このシリーズ、短編ホラー・二人称小説『あなた』は、色んな"視点"のホラーを書きます。  様々な「死」「痛み」「苦しみ」「悲しみ」「因果」などを描きますので本当に苦手な方、なんらかのトラウマ、偏見などがある人はご遠慮下さい。  小説としては珍しい「二人称」視点をベースにしていきますので、例えば洗脳されやすいような方もご観覧注意、願います。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

暗闇の中の光

ねむたん
ホラー
地球規模の人口増加により、自然食品の供給が限界を迎えた近未来。人々は人工食品「ニュートラフェア」を日々の糧とする生活を送っていた。しかし、ある日その食品に含まれる化学物質が予期せぬ健康被害を引き起こし、社会全体を混乱の渦に巻き込む。

処理中です...