リバース醜少女戦士 玉 

戸影絵麻

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#11 魔女狩り④

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 きょうの授業は、バスケットボールだった。
 体育教師がそう告げるのを耳にして、玉は列の最後尾でこっそり安堵した。
 集団で行う球技なら、目立たなくて済むからだ。
 己の運動音痴さ加減も、ブルマの尻の部分の不自然なふくらみも…。
 これが跳び箱やらマット運動やらの個人競技だと、全員の注視の中恥を晒さなくてはならなくなる。
 ほんと、あぶないところだった、と思う。
 最初は、パスの練習だった。
 むろん、玉と組もうなどというお人好しはクラスにひとりとしていない。
 だから自然、玉は壁を相手にワンバウンドでパスの練習に励むことになった。
 次は、ひとりずつドリブルしての、シュートの練習だ。
 これにはかなりひやりとしたが、超がつくほど下手糞な玉のシュートなど、誰も注目するはずがなく、そそくさと失敗してこそこそ席に戻ることでなんとか事なきを得た。
 最後は4チームに分かれての練習試合。
 男子2チーム、女子2チームがそれぞれ2面のコートにわかれて戦うのだが、玉が入ると残りの4人の女子が露骨に嫌な顔をした。
「おったまと一緒? マジかよ、勘弁してよ」
「最初から負けって決まりじゃん」
「4人でやるつもりで頑張るしかないね」
「おい、おったま、絶対ボールに触るなよ。触ったら殺すからな」
 言われるまでもなかった。
 玉とてボールになんか、触れたくもない。
「うん」
 真顔でうなずいて、コートに散る。
 ホイッスルが鳴ったら、やることはただひとつ。
「どんま~い」
 そう、やる気のない声をかけながら、常にボールと逆方向へと心がけ、ひたすらコートを駆け回るだけである。
 これがこの3年間、球技のたびに取る玉の常とう手段だった。
 そんな具合に時間は経って、何事もなく体育の授業が終わり、玉がほっと一息ついた時である。
「おい、おったま、片づけ、手伝えよ。きょう、女子体育委員の山田が休みで、人手が足りねえんだよ」
 帰ろうと踵を返しかけたところを、男子に呼び止められた。
 玉に声をかけてきたのは、もろ体育会系の角刈り男、桃山隆二である。
 その隣でにやにや笑っているのは、桃山のカノジョともっぱらの噂のギャル系女子、田宮亜美。
 体育の授業の後の片づけは、主に帯域委員の仕事と決まっている。
 桃山は、男子の体育委員だ。
 ふつう、クラスの委員は、男女各一名である。
 それが、相棒の山田康江が風邪で休みのため、代わりに亜美に手伝いを頼もうとしたのだろう。
 が、その亜美が、力仕事に難色を示したのに違いない。
 それにしても、なぜ自分が?
 と不思議に思う暇もなく、桃山が玉にバスケのボールを押しつけてきた。
「な、俺たち色々忙しいんだ。後はおまえひとりでやっといてくれよな」
 亜美の肩に腕を回し、にやにや笑う桃山。
 この後、ふたりで体育倉庫にでもこもって、お楽しみに励もうとでもいうのだろうか。
「いいけど…」
 仕方なく、ボールを抱えて、ふたりに背を向けた瞬間だった。
 ふいに、素っ頓狂な亜美の声が、体育館に響き渡った。
 
「ちょっと、おったま、あんたお尻に何入れてんの? まさか、ウンチ漏らしたんじゃないだろうね?」

 わ、しまった!
 
 み、見つかっちゃった!

 玉の顔から、音を立てて血の気が引いていった。

 ああ、神様…。

 玉は絶望に駆られ、心の中で、そうつぶやいた。



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