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第10部 姦禁のリリス
#106 女王と魔少女⑥
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「早く乗って」
運転席の塔子が顔を出し、そう呼びかけてきた時だった。
門の内側、店の玄関の引き戸が開いて、アフロヘアにサングラスの小太りの男が顔をのぞかせた。
「なんか外が騒がしいと思ったら・・・。ブッ、杏里ちゃん、なして裸なの?」
現れたのは、沼人形工房の主人、沼正二である。
伝統ある工房の主には見合わぬ、派手なアロハシャツをTシャツの上から引っかけている。
「あんた、自分の店の地下に何があったのか、気づいてなかったのか?」
ルナに支えられた由羅が、呆れたように目を丸くする。
「地下って・・・。確かにこのへんには、昔の防空壕とか陸軍が掘った抜け穴が埋まってるって話は、聞いたことがあるけど・・・うちの地下がどうかしたのかい?」
きょとんとする正二は、特に何かを隠している様子もない。
「その子には何を訊いても無駄だよ。なんにも教えていないんだから」
ワゴン車のドアがスライドして、大儀そうに降りて来た真布が横から口をはさんだ。
「あれ? ばあさん・・・。そんなとこで何やってるのさ。最近姿を見ないと思ったら・・・。正一と、瞑想室で死んでミイラになってやしないかって、心配してたとこだったんだよ」
正二の軽口に、真布がむっとする。
「馬鹿タレが。人を勝手に殺すでないよ。杏里ちゃんとね、ちょっとした実験をやってたとこだったのさ。ほら、見てごらんよ、私、ずいぶん若返ってるだろう? 皺も減って、背筋もこんなに真っすぐだ」
真布が自慢げに背を伸ばす。
「言われてみれば、ほんとだね・・・。なんか20歳は若返って見えるけど」
この素直さが、正二の美点である。
「だろ? 途中で邪魔が入らなければ、不老不死にもなれたのに、まったく惜しいことをしたよ」
杏里のほうをチラ見して、真布は未練げにつぶやいた。
「どうでもいいけど、ばあさん、暇ならちょっと店番変わってくれよ。俺、ここんとこずっと休みなしなんだが」
「しょうがないねえ」
ぶつぶつつぶやいて、真布が店の中に戻っていく。
その妙に平和な祖母と孫のやりとりを、杏里は呆気にとられる思いで聞いていた。
確かにここは元々真布の家である。
別に杏里たちと一緒に逃げなければならぬいわれはない。
「ちょっと、沼さん、あたしたちはどうすればいいんだい?」
転がるように車から飛び出してきたりつともうひとりの老女が、慌ただしく真布の後を追いかける。
「居たいならここに居ればいいさ。いつまでもね」
玄関の中から、真布のそんな呑気な声が聞こえてきた。
「それにしても・・・」
老女たちが店の中に姿を消すと、正二が杏里たちのほうに向き直った。
「君たち、なんだか酷い有様だね。3人とも、怪我してるんじゃない? 杏里ちゃんはその、フルヌードだし」
「庭園のほうには近づかないほうがいいよ。もうすぐちょっとした火事が起こるから。できれば、安全な部屋に隠れるか、別の場所に避難したほうがいいかも」
杏里が忠告した、その刹那だった。
「みんな、大変!」
ワゴン車の窓からいずなが顔を出し、だしぬけにジオラマ庭園の方角を指差した。
即席の杏里の治癒で、いずなも話ができるところまで回復しているようだ。
だが、その顔色は血色の悪い土気色で、まだまだ生気に欠けている。
「どうしたの?」
もう、処理班が到着したのだろうか。
それにしては、ヘリコプターも装甲車も見えないけど。
そんなことを考えながら振り返った杏里は、そこであっと声を上げていた。
「な、なあに、あれ? そ、そんな、ありえない・・・」
運転席の塔子が顔を出し、そう呼びかけてきた時だった。
門の内側、店の玄関の引き戸が開いて、アフロヘアにサングラスの小太りの男が顔をのぞかせた。
「なんか外が騒がしいと思ったら・・・。ブッ、杏里ちゃん、なして裸なの?」
現れたのは、沼人形工房の主人、沼正二である。
伝統ある工房の主には見合わぬ、派手なアロハシャツをTシャツの上から引っかけている。
「あんた、自分の店の地下に何があったのか、気づいてなかったのか?」
ルナに支えられた由羅が、呆れたように目を丸くする。
「地下って・・・。確かにこのへんには、昔の防空壕とか陸軍が掘った抜け穴が埋まってるって話は、聞いたことがあるけど・・・うちの地下がどうかしたのかい?」
きょとんとする正二は、特に何かを隠している様子もない。
「その子には何を訊いても無駄だよ。なんにも教えていないんだから」
ワゴン車のドアがスライドして、大儀そうに降りて来た真布が横から口をはさんだ。
「あれ? ばあさん・・・。そんなとこで何やってるのさ。最近姿を見ないと思ったら・・・。正一と、瞑想室で死んでミイラになってやしないかって、心配してたとこだったんだよ」
正二の軽口に、真布がむっとする。
「馬鹿タレが。人を勝手に殺すでないよ。杏里ちゃんとね、ちょっとした実験をやってたとこだったのさ。ほら、見てごらんよ、私、ずいぶん若返ってるだろう? 皺も減って、背筋もこんなに真っすぐだ」
真布が自慢げに背を伸ばす。
「言われてみれば、ほんとだね・・・。なんか20歳は若返って見えるけど」
この素直さが、正二の美点である。
「だろ? 途中で邪魔が入らなければ、不老不死にもなれたのに、まったく惜しいことをしたよ」
杏里のほうをチラ見して、真布は未練げにつぶやいた。
「どうでもいいけど、ばあさん、暇ならちょっと店番変わってくれよ。俺、ここんとこずっと休みなしなんだが」
「しょうがないねえ」
ぶつぶつつぶやいて、真布が店の中に戻っていく。
その妙に平和な祖母と孫のやりとりを、杏里は呆気にとられる思いで聞いていた。
確かにここは元々真布の家である。
別に杏里たちと一緒に逃げなければならぬいわれはない。
「ちょっと、沼さん、あたしたちはどうすればいいんだい?」
転がるように車から飛び出してきたりつともうひとりの老女が、慌ただしく真布の後を追いかける。
「居たいならここに居ればいいさ。いつまでもね」
玄関の中から、真布のそんな呑気な声が聞こえてきた。
「それにしても・・・」
老女たちが店の中に姿を消すと、正二が杏里たちのほうに向き直った。
「君たち、なんだか酷い有様だね。3人とも、怪我してるんじゃない? 杏里ちゃんはその、フルヌードだし」
「庭園のほうには近づかないほうがいいよ。もうすぐちょっとした火事が起こるから。できれば、安全な部屋に隠れるか、別の場所に避難したほうがいいかも」
杏里が忠告した、その刹那だった。
「みんな、大変!」
ワゴン車の窓からいずなが顔を出し、だしぬけにジオラマ庭園の方角を指差した。
即席の杏里の治癒で、いずなも話ができるところまで回復しているようだ。
だが、その顔色は血色の悪い土気色で、まだまだ生気に欠けている。
「どうしたの?」
もう、処理班が到着したのだろうか。
それにしては、ヘリコプターも装甲車も見えないけど。
そんなことを考えながら振り返った杏里は、そこであっと声を上げていた。
「な、なあに、あれ? そ、そんな、ありえない・・・」
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